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【ホンダ クラリティPHEV 4000km試乗】ホンダのチャレンジを味わいたい“高所得層”向き[後編]

自動車試乗記

ホンダ クラリティPHEV。島根・益田にて。全 29 枚写真をすべて見る

ホンダが2018年に発売した新世代PHEV(プラグインハイブリッド電気自動車)、『クラリティPHEV』を駆っての4000km試乗。後編は最大の特徴であるPHEVパワートレイン「i-MMD Plug-in」から述べる。

i-MMDの充電可能版ではない

2モーター式ハイブリッド「i-MMD」はエンジンで発電機を回して得られた電力で電気モーターを駆動させるシリーズハイブリッド方式を基本とし、一定条件下ではエンジンが直結モードとなり、モーターがアシストするパラレルハイブリッドにもなるという、シンプルだが凝った制御を持つシステム。i-MMD Plug-inはそれに総容量17kWhの充電可能な大容量電池パックを組み合わせ、BEV(バッテリーEV)としても活用できるようにしたものだ。

実際にドライブしてみると、i-MMD Plug-inは単なるi-MMDの充電可能版ではなかった。電気モーターの最大出力は135kW(184ps)と、『アコードハイブリッド』や『ステップワゴンハイブリッド』とまったく同一なのだが、ドライバビリティはもはやハイブリッドのそれではなく、ほとんどBEVそのものだった。

EVドライブ時はエンジンをほとんど使わず、ほぼバッテリーの電力だけで走ることができる。ほぼというのは、バッテリー出力が電気モーターの最大出力をすべてカバーしているわけではないということで、メーターゲージがフルパワーの4分の3を超えるとエンジンがかかり、必要な電力を補う。ただし、EV領域だけでも100kW超の出力は十分に確保されており、走行車線の流れがかなり速い状態でも高速道路への流入をエンジンの助けなしにこなすのは造作もないことだった。

バッテリーの電力残が10%前後になるとEV走行は中断され、ハイブリッド走行に切り替わる。興味深く思われたのはハイブリッド状態でも既存のi-MMDとは出力特性がかなり異なることだった。


ホンダのハイブリッドだけでなく、シリーズハイブリッドやトヨタのコンバインドハイブリッドは、フルスロットルをくれてからフルパワーが得られるまでに結構なタイムラグがある。スロットルを踏んだ瞬間に発電機を100%出力でぶん回すことはできないからだ。

ところが、バッテリー残が10%前後にまで落ちてもなお推定1.5kWh程度の電力を残しているi-MMD Plug-inの場合、踏んだ瞬間から出力100kW超のパワーを一気に出すことができる。そのうえでエンジンによる発電が立ち上がるにつれて負荷を発電機由来の電力に受け渡していく。結果、スロットルの踏み増しの過程でも出力がそれに応じてリニアに変化する気持ちよさはエンジンを持たないBEVとほとんど同じという感があった。もちろん電気駆動であるため、パワー感は同水準の出力値の内燃機関モデルを大幅に上回る。

筆者は過去にトヨタ『プリウスPHV』や三菱『アウトランダーPHEV』はじめ、内外のさまざまなPHEVをドライブしたことがあるが、EV走行からハイブリッド走行に切り替わったときに、気持ちよさが失われてとてつもなく残念な気分にさせられるのが常だった。が、クラリティPHEVはEV走行とハイブリッド走行でドライバビリティがほぼ同じであったため、そういうがっかり感とは無縁だった。そういう作り込みがなされたPHEVはこれが初めてかもしれない。

注文があるとすればエンジン。普段はエンジン停止状態の割合が結構高く、また低速で回っているぶんには素晴らしく低ノイズ、低振動なのだが、高負荷状態が続くと一気に高回転の連続運転となり、質感が低下する。アコードと同じ2リットルミラーサイクルだともっとゆとりがあるのではないかと思った。

17kWhの容量だが、マージンは多め


次に充電について。メインバッテリーの容量17kWhは、世界初の量産EVとして10年前に登場した三菱『i-MiEV(アイミーブ)』の16kWhを上回る大きさ。クラリティPHEVは細かい車両のエネルギー収支を表示する機能がなく、充電器のデータからの類推だが、0→100%のステートオンチャージは15kWh。ただし、EV走行は残り10%あたりまでなので、実際の使用範囲は1割減の13.5kWh。急速充電の場合は10→80%で10.5kWhといったところであった。

今回のドライブでは普通充電による満充電からハイブリッド走行への切り替わりまでを3回試してみた。いずれもデフロスター暖房使用で、結果は1回目がホンダ青山本社~東京23区内の市街地走行オンリーの62.8km、2回目が静岡西部の道の駅潮見坂からバイパス経由で名古屋市内に達した区間で99.9km、3回目が佐賀県の鳥栖から関門トンネル経由で山口に達した95.7km。

ちなみに1回目は表示上は100%であったが、他の満充電では100%表示がしばらく続いたことから、自動停止まで充電した場合はもう少し伸びていた可能性がある。

推定残量9%から200V普通充電で満充電状態にするのに要する時間は実測で5時間10分程度。ただし充電率90%を超えると充電効率が落ちるようで、そこまでで切り上げれば1時間くらい時間が節約できるものと思われた。ホンダの充電サービスによる普通充電料金は1分1.5円なので、外で充電してもガソリン走行に対して若干ではあるが経済メリットはあった。


クラリティPHEVは普通充電に加え、CHAdeMO規格の急速充電にも対応しており、それもドライブ中に頻々と試してみた。結論から言うと、自宅外でのクイックチャージはコスト的にはまったく割に合わなかった。

日本では電力会社を守る電気事業法の規制により、1kWhあたりいくらという従量課金ができず、1分あたりいくらという感じで施設使用料を取るしかない。有償で急速充電をやる意味があるかどうかは、同じ時間でどれだけの電力を受け取れるかにかかっている。

その充電ペースだが、クラリティPHEVは公称17kWhという大型バッテリーを搭載していることへの期待値ほどには早くなかった。バッテリーパックの設計はかなり真面目で、水冷方式によるアクティブクーリングシステムを装備している。が、ホンダの電動モビリティ部門は業界でもちょっと有名なくらいに耐久性マニア。高度な温度管理機能を備えながらなお、バッテリーの劣化を防ぐためのマージンをよほど手堅く見積もっているようだった。

急速充電の効率は


現在、急速充電器は全国に約7600か所設置されているが、その性能はどれも同じではない。最近、新世代の出力90kWの装置が姿を見せはじめているが、それ以外の既存のものは日産自動車ディーラーや高速道路などで主流の出力50kW機(実際には44kWで運用されているものがほとんど)、三菱自動車ディーラーや道の駅などで主流の出力30kW、コンビニでよく見られる出力20kWなどがある。

充電器から出力される電力量の最大値は44kW機の場合、1時間で44kWh。30分だとその半分の22kWh。バッテリーに入るまでにそこから約1割程度ロスがあるとして、20kWhが理想状態で30分充電したときの電力量となる。30kW機で30分だと14kWh、20kW機だと9kWhといったところである。が、これはバッテリー側がフルに電力を受け取れる状態であると仮定した最大値。実際にはどのクルマでも、バッテリーの温度コンディションが悪いときには充電が絞られるようになっている。

さて、そのクラリティPHEVを出力44kWの急速充電器にかけてみた。電池残量10%からの充電スタート時点の電流は82アンペア、電圧は297ボルト。出力は電圧×電流の単純計算ではじき出すことができ、この場合は約24.4kW。30分そのままの出力が維持されても、最大で12.2kWhしか入らないことになる。

充電電圧は空に近いところでは300ボルト前後、充電率が高まるにつれて電圧は上がり、電流は下がる。30分の充電終了直前の数値は333ボルト・53アンペア、出力17.6kWであった。急速充電器のディスプレイ上の充電率は10%から85%まで回復。ステートオンチャージ(バッテリーの実使用範囲)10%あたり1.5kWhとすると、11.3kWh入ったことになる。


実はこれがこの4000kmツーリングにおける急速充電のベストスコア。また、島根の道の駅「あらエッサ」に設置されていた無料充電器(44kW)でも入りが良く、28分で10%から80%まで回復させることができた。

だが、44kWで常にこのくらいのスコアが出るわけではない。同じ44kW機であっても、最初から16kWスタート、終了前には5kWくらいに落ちてしまうことも何度もあった。気温が低かったり連続走行後だったりと、そうなる条件が決まっていればまだ理解できるのだが、実際にはアトランダムに低速化が発生した。また、最初から24kWくらいでしか電力を受けないのであれば、30kW機や20kW機でも大して違いはないのではないかと考えたが、低スペックの充電器ではより低速になる傾向があった。

充電量10kWh、電力消費率を7km/kWhとすると、1充電で稼げる走行レンジは70kmぶん。ガソリンを使ってハイブリッド走行したとすると、おおむねガソリン3リットル分といったところだ。レギュラーガソリンがリッター200円くらいの時代になればこれでもペイするが、現状ではとても間尺に合わない。ただし、1kWhあたり30円といった売り方ができるようになれば話も変わってくるだろう。

東京への帰路、標高800m強の箱根峠から小田原まで駆け下り、どのくらい回生されるか試してみた。バッテリー残量がパーセンテージで表示されないので正確な数値はわからないが、平地に達したときにはEV航続距離15.7kmとなっていた。そこから西湘バイパス経由で茅ヶ崎方面に走ったが、EV走行が終了したのはそこから18.9km走行地点。電費をちょっと甘めに見て1kWhあたり8kmとしても2.3kWhくらいは回収できた計算になる。

純粋なハイブリッド走行の実測燃費はロングランで21~23km/リットル、市街地走行で16~18km/リットル。アコードハイブリッドに比べると車両重量が大きいぶん燃費が落ちるが、それでも低CO2ぶりは大したレベルである。1リットルあたりの炭素量が多いディーゼル燃料に換算すればリッター25km前後という計算になる。難点は燃料タンクが公称26リットルと軽自動車にも負ける小ささで、ハイブリッド走行のみだと航続距離が短いこと。余裕をみて500kmごとに給油するのが安全だ。

「ホンダの未来へのチャレンジを味わいたい」高所得層なら


クラリティPHEVは電動モビリティとしての新しさ、Dセグメントセダンとしての性能の高さについては十分以上に作り込みがなされている一方、588万円という価格帯のクルマはどうあるべきかということについてはまったくと言っていいほど考えられていないという、きわめて実験色の濃いモデルであった。ホンダは1.5リットルハイブリッドのミッドサイズサルーン『インサイト』も昨年末に発売したが、チャレンジングスピリットという点ではこっちのほうがインサイトの名に似合っている感すらあった。

先進安全システム「ホンダセンシング」は渋滞追従機能付きのアダプティブクルーズコントロールをはじめ、今日の安全システムとしては標準的な機能を持つ。高速やバイパスのクルーズでは重宝したが、600万円級の先進技術車というイメージを醸成するには機能が足りない。謎だったのは、今や軽商用車の『N-VAN』にも装備されているヘッドランプのハイ/ロービーム自動切換えが未装備だったこと。本来だったら先行車や対向車を避けてアダプティブ照射するアクティブハイビームくらいついていてもいいくらいなので、充実を図っていただきたい。

こういう安普請な商品性になったのには、無理からぬ理由もある。カリフォルニアのNEV規制でペナルティの支払を回避するためにクラリティシリーズを一定台数以上売らなければならいという事情から、赤字販売は避けられないとしても、赤字幅を少しでも小さくするため安く作る必要があったものと推測される。実際、アメリカでのスターティングプライスは税抜き3万3400ドルと安い。1ドル=110円、消費税8%で日本円に換算すると396万円だ。

ドライブを終えた後、数人のホンダ関係者に社内でこのクルマを買っている人がどのくらいいるか聞いてみた。果たして皆、異口同音に「買ったという話を聞いたこともないし、駐車場でも社有車以外はほとんど見たことがない」と語っていた。ホンダの役員や上級管理職の所得水準は、世間一般から比べるととても高く、購買力はある。588万円(それでも採算割れかもしれないが)という価格でも、それに見合う満足感を得られるのだったら、彼らは買うはずだ。もしこのクルマに次があるならば、そういう付加価値づけをやっていくといいと思った。

とはいえ、現状でもクルマとしての完成度、革新性は外観から受けるイメージよりずっと高く、所有する意味がまるでないというわけではない。電動モビリティとしての能力は十分に高いし、内外装と味付けを買えてやれば、まんまプレミアムセグメントになるだけのポテンシャルもある。たとえば自宅に充電設備を設置可能で、かつホンダの未来へのチャレンジを味わってみたいという高所得層の人なら、あえて買うのも面白いと思う。

ロングレンジPHEVという特性にかんがみると、今のところライバルは不在と言える。価格帯、革新性、性能などの面で最大の強敵として立ちはだかりそうなのは、今夏の日本デビューが決まっているテスラ『モデル3』か。

《text:井元康一郎》

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