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聴取位置を擬似的に移動させられる機能がある!? カーオーディオ『用語解説・2021』 Section 5・コントロール関連編 第5回

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「タイムアライメント」機能の設定画面の一例(フォーカル・FSP-8)。全 8 枚写真をすべて見る

カーオーディオで用いられる難解な専門用語を、1つ1つ解説している当シリーズ。現在は、サウンドチューニングに関連するワードにスポットを当てている。今回は、「タイムアライメント」について解説する。さて、この名称の意味するものとは…。

クルマの中では、「ステレオ感」の再現が難しい!?

結論から入ろう。「タイムアライメント」とは、スピーカーの発音タイミングを変えられる機能の名称だ。

このような機能が必要となる理由は以下のとおりだ。クルマの中では、リスニングポジションが左右のどちらかに片寄る。これは致し方のないことだが、この状況は実は、「ステレオ再生」を楽しもうとするときの弊害になる。というのも「ステレオ再生」を楽しむためには、左右のスピーカーから等距離の場所に身を置く必要があるからだ。

「ステレオ」とは、録音した音楽を立体的に再現するためのものだ。人間の耳は左右についていて、ゆえに音の出どころを感じ取れる。そしてコンサートホールでオーケストラの演奏を聴くようなときには、各楽器の位置を感じ取れる。「ステレオ」は言ってみればこの仕組みを逆手に取っている。音楽を左右のマイクで録音し、右のマイクで録音した音を右のスピーカーから、左のマイクで録音した音を左のスピーカーから再生する。そうすると録音現場にいるかのような状態を作り出せるのだ。

しかしこのメカニズムを機能させるには、左右のスピーカーから等距離の場所で音楽を聴く必要がある。そうしないと左右の音量や音の到達タイミングのバランスが崩れ、結果、音像も崩れてしまうのだ。

ところで蛇足だが、現代のポピュラー音楽の録音は多くの場合、各楽器の演奏は個別に録音され最終的に「ミックス」という工程を経て楽曲データが完成される。そのときに、録音した各楽器の音を左右のchに振り分ける。つまり、演奏の立体感は後付けされることとなる。機械的に各楽器の立ち位置を右にずらしたり左にずらしたり、奥まらせたり前に出したりするのだ。そしてこのように録音された楽曲を聴くときにも左右のスピーカーから等距離の場所に身を置かないと、レコーディングエンジニアが作り出したステージ感を体感できない。

「タイムアライメント」機能の設定画面の一例(三菱電機・ダイヤトーンサウンドナビ)。

「タイムアライメント」を使うと、リスニングポジションを移動させられる!?

しかしながら、カーオーディオでは左右のスピーカーから等距離の場所に身を置くことができない。さらにいえば、ツイーターとミッドウーファーの装着位置もバラバラなので、ツイーターが発する音とミッドウーファーが発する音の到達タイミングもズレてしまう。

だが「タイムアライメント」機能が使えれば、すべてのスピーカーから等距離の場所にいるかのような状況を作り出せる。当機能ではスピーカーの発音タイミングを遅らせることができるので、近くにあるスピーカーほど発音タイミングを遅らせれば、すべての音が同時に耳に届くようになる。つまり、もっとも遠くにあるスピーカーから発せられた音が耳に届くタイミングに他のスピーカーの音も合わせれば良い。結果、すべてのスピーカーから等距離の場所に移動したかのような状態を作り出せるのだ。

ただし、このような詳細なチューニングを行うためにはツイーターとミッドウーファーの音を個別に制御する必要があるので、前回の記事で説明した「クロスオーバー」という機能も併せて必要になる。で、サウンドチューニングを行うためのユニットである「プロセッサー」には普通「クロスオーバー」機能も搭載されているので、まずは「プロセッサー」内で「クロスオーバー」機能を用いてあらかじめツイーターの音とミッドウーファーの音を分割し、その上でそれぞれの信号に対して「タイムアライメント」がかけられる。

そして各信号に「タイムアライメント」をかけた後には、それぞれを個別に伝送しなくてはならないので、パワーアンプのch数はスピーカーユニットと同数必要となる。というわけで「タイムアライメント」を詳細に効かせたいと考える場合には、1つ1つのスピーカーユニットに対してパワーアンプの1chずつをあてがう「マルチアンプシステム」の構築がマストとなるのだ。

「タイムアライメント」機能の設定画面の一例(クラリオン・フルデジタルサウンド)。

簡易的なタイプであっても、「タイムアライメント」機能は効く!

ちなみに、ツイーターとミッドウーファー間に適用できる「クロスオーバー」機能を持たない「メインユニット」にも、「タイムアライメント」機能が搭載されていることがある。そのような機種ではツイーターとミッドウーファーの個別制御はできないが、フロントの左右、リアの左右、この4つの出力のそれぞれに「タイムアライメント」をかけられる。なのでフロントスピーカーがセパレート2ウェイであってもツイーターとミッドウーファーを1つのスピーカーとして扱うことにはなってしまうが、そうであっても「タイムアライメント」機能が搭載されていないモデルと比べてかなり有利だ。「ステレオ」感の再現性がアップする。

ところで再び蛇足だが、「タイムアライメント」機能が一般化する以前はツイーターの取り付け方を工夫することで「ステレオイメージ」の再現性を上げようとされることが多かった。もっともスタンダードだったのは、ツイーターをキックパネルに装着するというやり方だ。ここに取り付けるとツイーターを奥まった場所に位置させられるので、例えばダッシュボードの目の前あたりにポンと置いたときと比べて左右の距離差が少なくなる。結果、リスニングポジションを中央よりに移動させたかのような状態を作り出せる。

なお現在でも、「プロセッサー」を搭載していないシステムにおいてツイーターの埋め込み加工が成される場合には、ツイーターはドアミラー裏に埋め込むよりも、Aピラーに埋め込んだ方が有利だ。特に最近はフロントガラスが寝ている車種が増えていて、そうであるとAピラーの付け根が遠くに位置することとなるので、Aピラーの付け根付近にツイーターを埋め込むと左右の距離差を縮められる。なので「タイムアライメント」が備わっていないシステムでも、サウンドコントロールがしやすくなる。

今回は以上だ。次回もサウンドチューニングに関した用語の解説を続行する。お楽しみに。

太田祥三|ライター
大学卒業後、出版社に勤務し雑誌編集者としてキャリアを積む。カー雑誌、インテリア雑誌、そしてカーオーディオ専門誌の編集長を歴任した後、約20年間務めた会社を退職しフリーに。カーオーディオ、カーナビ、その他カーエレクトロニクス関連を中心に幅広く執筆活動を展開中。ライフワークとして音楽活動にも取り組んでいる。

《text:太田祥三》

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