「外部パワーアンプ」は必ずしも使わなければいけないものではない。なぜならメインユニットに「パワーアンプ」が内蔵されているからだ。しかし音にこだわる愛好家の多くは、敢えてこれを使用している。当特集では、その理由からこの活用法までを解説している。
◆「マルチアンプ接続」は、「バイアンプ接続」とはどう違う?
今回は、「外部パワーアンプ」を活用するときのスペシャルな接続方法である「マルチアンプ接続」について説明していく。もしも「外部パワーアンプ」を使うのであれば、いつかはこれを実践したい。そうすることでサウンドクオリティの向上を果たせるからだ。
では、これがどのようなものなのかを説明していこう。簡単に言うならば以下のとおりだ。「マルチウェイスピーカーの1つ1つをパワーアンプの1chずつを使って鳴らす接続方法」ということになる。
そう聞くと、前回に説明した「バイアンプ接続」と同一なのではと思うかもしれない。確かに「バイアンプ接続」も「パワーアンプ」の1chずつを使ってスピーカーユニットの1つ1つを鳴らすものだが、「マルチアンプ接続」とは1点、決定的に違っていることがある。それは、信号の帯域分割を「パワーアンプ」の前段で行うか後段で行うか、という点だ。
「バイアンプ接続」では、「パワーアンプ」の後段に設置される「パッシブクロスオーバーネットワーク(以下、パッシブ)」にて信号の帯域分割が行われる(細かく言うと、信号は「パッシブ」に接続する段階で2系統に分けられているので分割は行われず、信号のハイカットとローカットが実行される)。対して「マルチアンプ接続」では信号の帯域分割は、「パワーアンプ」の前段に組み込まれる「プロセッサー」内にて行われることとなる。
◆「バイアンプ接続」との大きな違いは、「信号を詳細に制御できるか否か」。
さて、信号の帯域分割を行う機器の組み込まれる場所が違うことで、得られるメリットにも違いが出てくる。なお、「スピーカーをトルクフルに動かせる」という利点は共通している。1つのスピーカーに対して「パワーアンプ」の1ch分の出力を注げることには変わりがないからだ。
ただし厳密に言えば多少の違いはある。パワーアンプとスピーカーがダイレクトに繋がる「マルチアンプ接続」の方が回路的にシンプルなので、その意味では有利だ。しかしそうは言っても、「バイアンプ接続」でも十分トルクフルにスピーカーを鳴らせる。なので大きな違いはないと思って大丈夫だ。
差が出るのはズバリ、「信号制御をきめ細やかに行えるかそうでもないか」という点だ。「マルチアンプ接続」では多くの場合、「プロセッサー」にて信号の帯域分割が行われる。そうして「プロセッサー」内部で併せて、帯域分割が行われた後の個々の信号に対してこと細かにサウンド制御が実行される。
◆詳細な信号制御を行おうとすると、「マルチアンプ接続」をせざるを得ない!?
というのも車室内環境には音響的な不利要因がいくつかあり、それらに対処したいがために「プロセッサー」が使われている。しかも、ツイーター用の信号とミッドウーファー用の信号が個別に制御されることとなる。そうした方が詳細なチューニングを行えるからだ。で、個別にチューニングされた各chの信号は、「プロセッサー」から出力された後も個別に伝送されなければならない。信号を混ぜるわけにはいかないからだ。ゆえに「マルチアンプ接続」が行われる、という側面も持っている。
なお、「プロセッサー」を用いる「マルチアンプ接続」は、コストがかかる。最近はリーズナブルな「プロセッサー」もさまざまリリースされてはいるが、それでも「パッシブ」よりは高価な場合が多い。
なので、リーズナブルに「マルチアンプ接続」の利点が得られるようにするためのユニットもさまざま販売されている。それは「パワーアンプ内蔵DSP」だ。これは「プロセッサー」と「外部パワーアンプ」とが一体化したもので、「単体プロセッサー」と「外部パワーアンプ」とを個別に用意するよりも低コストで手にしやすい。
また、カロッツェリアの『サイバーナビ』と三菱電機の『ダイヤトーンサウンドナビ』も高度な「プロセッサー」を内蔵しているので、「内蔵パワーアンプ」にて「バイアンプ接続」が可能だ。
とはいえもっとも音的にアドバンテージを発揮するのは、「単体プロセッサー」と「外部パワーアンプ」にて実行する「マルチアンプ接続」だ。
次回は、その実際について深掘りする。お楽しみに。
《text:太田祥三》