エンジンを傷めないために気をつけたい暖機運転。昔ほど暖気にシビアさはなくなったが、エンジンだって寝起きに全力疾走しろと言われたらいい気持ちはしない。正しい暖気のやり方に迫る。
暖機運転とはエンジンを掛けて走り出す前にエンジンを暖めること。エンジン内部にオイルを循環させることで摩耗を防ぎ、温めることでエンジン内部が本来の設計寸法になり、クリアランスが適正になることで本来の性能を発揮できる。
しかし、実は暖機運転はエンジンに厳しい側面もある。アイドリングでエンジンを温めていると、なかなか温度が上がらずクリアランスが適正にならないためにピストンサイドから混合気が漏れる。クランクケース内に落ちた混合気はエンジンオイルに吸収されて、オイルにはガソリン成分が増えていく。ガソリンによってオイルはシャバシャバになり、潤滑性能が落ちていくということが起きる。
これが顕著に現れるのは雪国の車両。リモコンスターターなどでエンジンを始動して、室内が温まりフロントガラスが溶けた頃に発進する。それまで15~20分ほどアイドリングしていることも多い。その間、極寒のエンジンはなかなか温まらず、オイルにはどんどんガソリンが混じり劣化してしまうのだ。
「リモコンスターターで長い時間アドリングで暖機運転しているお客様はオイル交換ですぐに分かります。オイルがシャバシャバで、劣化の度合いも進んでいます」と北海道札幌市のクルーズ吉川大志郎マネージャー。
とはいえ、フロントガラスの氷が溶けないと発進できない雪国では、長時間暖気は致し方ない。とくに冬場は早めのオイル交換をしてもらうしかないという。
エンジンにとっての理想は走りながら温めること
雪国のような問題がないのなら、オススメの暖気方法は走りながら温めること。まずエンジン始動したら1分程度は待つ。オイルがしっかりと循環するまで待機。1分程度したら、ゆっくりと走り始める。いきなり回転を上げるのはもちろん良くない。回転を上げなければいいと低い回転でグイグイ加速する人もいるがこれはもっとダメ。エンジンの負荷はグッと増えてしまう。
ふんわりと加速しながら徐々に速度を上げていく。これはエンジンの暖気はもちろん、ミッションやオートマ、デファレンシャルなど、あちこちに潤滑が必要でオイルが入っている部分があるわけで、それらを少しずつ温める効果もある。
なので、朝、ちょっとゆっくり走っているクルマがいたら、「んだよ、とろいな~」と思うのではなく、「きっと今、家から出てきて暖気中なんだな」と思って欲しいし、自分が暖気していたら周りにもそう思われたいところ。
事情は変わってレースでは仕方なく空ぶかしで暖気する
レーシングカーはコースに並べて1周だけフォーメーションラップをしてもうスタートなので、ゆっくりと走って暖気が出来ない。そこで仕方なくピットでエンジンの空ぶかしをして徐々に温めている。決してそれが理想ではないので、マイカーで空ぶかしで暖気するのはオススメではない。
また、レースではミッションやデフなどの駆動系を温めるために、ジャッキアップした状態でエンジンを掛けてギアをつなぎ、タイヤを空回りさせて暖機運転をしている。負荷は掛からないが駆動系のオイルやグリスを温め、正しい潤滑ができる状態にする効果はある。
ちなみにNASCARは温めたオイルを循環させて暖気している
アメリカの伝統的モータースポーツのNASCAR。オーバルコースを350km/h以上で走る人気レースだ。このレースでは昔から「Start your engine」の掛け声とともに一斉にエンジンをスタートするのが見せ場である。野球で言うところの始球式に近いイベントで、芸能人やスポーツ選手、政治家などがレースのたびにマイクでこの合図を掛けるのである。
それが見せ場なので、それまでは静寂に包まれている必要があり、基本的にエンジンは掛けられない。そこでNASCARではエンジンのオイルラインに、温めたオイルを圧送して循環させ内部を暖気しているという。
大型船舶では一般的な方式でプレーヒーティングと呼ばれる方法でエンジンを温めているのだ。
《text:加茂 新》