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【ボルボ XC90 リチャージ T8 新型試乗】心豊かにしてくれるクルマとは何なのか…渡辺慎太郎

自動車試乗記

ボルボ XC90 リチャージ T8(XC90 Recharge Plug-in Hybrid T8 AWD Inscription)全 25 枚写真をすべて見る

今回の試乗会はリレー形式で、私は金沢から長野までの区間を担当させていただいた。旅のお供はボルボ『XC90 Recharge Plug-in Hybrid T8 AWD Inscription』というちょっと長い名前のモデルだった。

印象は“いい意味で”鮮明ではない

誤解を恐れずに言うのであれば、あらためて道中を振り返ってみると、思い出すのは珍しく穏やかで透明度の高い日本海の海原とか、目にも眩しい長野の山々の新緑とか車窓からの見目麗しい風景ばかりで、XC90の乗り味に関する印象は“いい意味で”鮮明ではない。でもこうしたドライブを邪魔しない性能こそが、XC90というクルマの本質的な魅力ではないだろうかと個人的には考えている。

全長が5m近くあって全幅は1900mmを超えていて、重心が高く車両重量も重いSUVを難なくまともに走らせるように作るのはなかなか容易ではない。例えばパワートレインは、スロットルペダルに対するレスポンスはよいか、欲しい時に欲しいだけのトラクションが得られるか、それでも健全な燃費を実現できるのかなど、達成すべき要件が多い。

ただただ素直 大きいクルマを運転しているというストレスはほぼ皆無

ボルボは基本的に4気筒エンジンを主力のユニットとしていて、XC90もすべてのグレードが4気筒である。しかし、「B5」と「B6」はこれにターボチャージャーと電動スーパーチャージャーによる過給とモーターによって十分な駆動力を確保し、さらに気筒休止までする念の入れようだ。

試乗車の「T8」はターボチャージャーと機械式スーパーチャージャーを備え、後輪はモーターで駆動するAWDとなる。クルマが停止から加速していく過程において、T8の前輪はモーターとスーパーチャージャーとターボが次々とたすきを受け渡しながら駆動し、後輪にはモーターによる適宜適切な駆動力が与えられている。つまり、T8はかなり複雑で緻密な制御と機構を有しているのだけれど、いま何がどれくらい働いているのかはドライバーにはほとんど分からない。

スロットルペダルを踏むとスッと動き出しスムーズに加速する安定的な動力性能が当たり前のようにいつでも足元にある。ことさらに動力源が主張しない、まるで空気のような存在のパワートレインなのだ。

ハンドリングについても似たような印象を受ける。XC90のような大きなSUVはばね上の質量があるなどの理由により、操舵応答遅れが生じる場合が多い。ステアリングを切ると前輪が動いてフロントは向きを変え始めるが、リヤは少し遅れて反応するといったような状態である。XC90ではこうした挙動がほとんど確認できなかった。タウンスピードや高速巡航など速度域を問わず、ステアリングの動きに対してクルマは極めて従順に動く。クセのある挙動は一切なく、「ん?」と思うような場面にも1度も遭遇しなかった。

山道に入ってステアリングを頻繁に動かすようになってもちゃんとついてきてくれて、大きいクルマを運転しているというストレスはほぼ皆無。ステアリング操作に俊敏に反応するスポーティなハンドリングではないけれど、このクルマにそういう所作は似合わないと思うし、全般的に漂うおおらかな乗り味にはこうしたただただ素直なハンドリングのほうが合っている。

心地よさの要因はふたつ

XC90にはこれまでにも乗ったことがあるけれど、長距離をドライブしたのは今回が初めてだったかもしれない。あらためて感じたのはその心地よさで、要因は主にふたつあると考えられる。ひとつは乗り心地。特に試乗車にはエアサスペンションが標準装備されていて、空気ばねと電子制御式ダンパーが路面からの入力を見事にいなしてくれるし、ばね上が動いたとしてもその速度がとてもゆったりしているから不快感はまったくない。これには、身体全体を包み込むように支えてくれるシートも大きく貢献している。背中も腰もお尻も太股も面圧分布が広く均一で、どこか部分的に荷重がかかっているような感じもなく、ソファに腰掛けているような座り心地である。

そしてもうひとつは室内に漂う優しい雰囲気。トリムやスイッチなど室内にあるほぼすべての角は丸められているし、ダッシュボードやセンターコンソールの質感も上質で、日常から持ち込んだギザギザした気持ちをならしてくれる。このおもてなしが北欧流なのかボルボ流なのかはよくわからないけれど、少なくとも人を不快にする要素はまったく見当たらない。

平日はガソリンを一滴も使わずに済むかもしれない 最大走行距離39.2kmのEVモード

350Vの駆動用リチウムイオンバッテリーを搭載するプラグインハイブリッドのこのモデルでは、EVモードで最大39.2kmの走行が可能だという。欧州での一般的な通勤距離は往復約30kmだそうで、帰りにどこかに立ち寄っても平日はガソリンを一滴も使わずに済むことが想定されている。そして週末には今回のようなロングドライブに出掛けても、クルマの性能云々を気にすることなく車窓の景色を眺めながら、季節の移ろいなんかを楽しむのだろう。

こういうライフスタイルを最近魅力的に感じるようになったのは、自分がいい歳になったからかもしれない。心豊かにしてくれるクルマとは何なのかについて、じっくり考える機会を与えてくれたショートトリップでもあった。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★

渡辺慎太郎|ジャーナリスト/エディター
1966年東京生まれ。米国の大学を卒業後、自動車雑誌『ル・ボラン』の編集者に。後に自動車雑誌『カーグラフィック』の編集記者と編集長を務め2018年から自動車ジャーナリスト/エディターへ転向、現在に至る。

《text:渡辺慎太郎》

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