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【ボルボ XC90 B5 1200km試乗】マイルドハイブリッドにバリューはあるか[後編]

自動車試乗記

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ボルボのプレミアムラージSUV『XC90』のマイルドハイブリッドモデル「B5 Momentum(モメンタム)」で1200kmほどツーリングする機会があった。全編ではドライブフィールについて述べた。後編ではオンロードでのパフォーマンスを通じ、マイルドハイブリッドにどれだけのバリューがあるか、現状と今後について考察を加えていこうと思う。

エンジン依存度が低いほど好パフォーマンスが期待できる

2025年までに販売する全車両を何らかの電動化技術を組み込んだ車両にするという目標を打ち出しているボルボ。内訳は半分がBEV(バッテリー式純電気自動車)、後の半分はPHEV(プラグインハイブリッド電気自動車)とHEV(ハイブリッド電気自動車)。今回乗ったXC90 B5は電動化の規模が小さいマイルドハイブリッドを用いたHEVである。

ハイブリッドはストロング、マイルド、マイクロの3種類に大別される。マイクロは電気モーターが駆動力をまったくアシストしないかごく限定的にしかアシストしないもの、マイルドはモーター単独のみで発進加速することはできないが、広範囲にわたってアシストや回生を行っているもの、ストロングは発進加速をある程度モーターだけでこなすことができるなど、エレクトリックが駆動全体の中で大きな役割を占めるものを指す。

そのマイルドハイブリッド、それ自体はホンダが20年以上前の1999年に第1世代『インサイト』に搭載し、その後もいろいろなクルマに採用されてきたいわゆる“枯れた技術”である。方式もさまざま。ホンダの第1世代ハイブリッドシステム「IMA」はエンジンに電気モーターを直付けするタイプ。スバルやスズキは変速機側に電気モーターを置き、エンジンを停めての空走を可能としたタイプ。


では、XC90のマイルドハイブリッドはどのような方式なのか。それはモーターをエンジン~変速機~デファレンシャルギア~ドライブシャフトという一般的な動力経路の外に置き、エンジンとベルトで結合してモーターアシストを行ったり減速時にエネルギー回収を行うというもの。マイルドハイブリッドとしては最も原始的な形態である。直付けやギア駆動に比べるとフリクションロスが大きく、燃費削減効果は最も小さいが、最小限の改設計で既存のクルマに簡単に装備可能というメリットがある。

電気モーターの性能は最高出力10kW(13.6ps)、最大トルク40Nm(4.1kgm)。システム電圧は48ボルト、リチウムイオン電池の総容量は0.44kWh。最高出力はホンダの第2世代インサイト、スバル『XVアドバンス』、スズキ『スイフトハイブリッド』などと同じ。最大トルクはホンダの78Nm、スバルの65Nmより小さく、スズキの30Nmより大きいといったところ。

マイルドハイブリッドは本来、軽量級のモデルであればあるほど、言い換えればエンジンへの依存度が低ければ低いほど好パフォーマンスが期待できる。XC90 B5の場合、2リットルターボに対する電気モーターの能力は最高出力が184kW(250ps)の5.4%、最大トルク350Nmの11.4%にすぎない。車両重量は2.1トンもあるため、エンジン負荷は自然と高めになる。この、ハイブリッドと呼べる下限に近いシステムで、果たしてどの程度の燃費節減効果が得られるものか、いささか懐疑的な気持ちも抱きながらドライブに向かった。

燃費削減効果、パワーフィールの両面で予想外に良好


ところがである。オンロードにおけるパフォーマンスは燃費削減効果、パワーフィールの両面で、予想外に良好であった。まずは燃費。東京都内では8km/リットル前後。高速道路をクルーズコントロールに任せ、優速な流れに乗って走って13km/リットル前後。2トンオーバーのラージSUVとしては十分にアクセプタブル。同じ環境で走ったわけではないが、実走燃費は登場当初の非ハイブリッドに比べて15~20%くらい向上しているのではないかと思われた。ディーゼルには燃費、CO2排出量の両面でまだまだ及ばないものの、長足の進化と言っていい。

帰路の最後の100kmくらいの間、試しにオートクルーズを使わずに走ってみた。ボルボのマイルドハイブリッドシステムは形式的にはパラレルハイブリッド。ホンダのかつてのIMA車を燃費良く走らせる時のような速度調節、スロットルワークをやれば、同じように燃費が伸びるのではないかと思ったのだ。

果たしてその効果はかなり大きく、それほどスピードを落として走ったわけでもないのに燃費は15km/リットルを超える水準で推移するようになった。今後クルーズコントロールの制御プログラムがパラレルハイブリッドを生かすようなものに改良されれば、システム任せでももっと燃費良く走れるようになるだろう。


動力性能のほうも巨体に2リットルターボという組み合わせから受けるイメージよりはずっと機敏だった。エンジンと電気モーターの合成最高出力は264psでパワーウェイトレシオは8kg/ps。8速ATの下の段が結構加速重視のギア比を持っていることが好作用してか、ブレーキ→アクセル踏みかえというシンプルな操作での0-100km/h加速は8秒台半ば。発進直前にブレーキを踏んだまま少しエンジン回転数を上げてやればもっとタイムを縮めることも可能だろう。

ドライバビリティの部分では、乗る前にこれはマイルドハイブリッドですよと言われなければハイブリッドと察知できなかったかもしれないと思うくらいナチュラル。単純な構造でよくここまで作り込んだものだと思う半面、HEVに乗っているという特別感は皆無だ。

よく観察してみるとエンジン回転数が低いまますーっと加速したり、アイドリングストップからの復帰時にキュキュッと言わないなど、ハイブリッドの特徴があるにはある。が、ベルトドライブゆえクルーズ時にエンジンが停止したりといった、高度なドライブモードは持たない。ボルボの8速ATはトルクコンバーターを切断して空走する機能を備えており、それを利用すればエンジンを停止させることも可能ではあるのだろうが、現状ではそこまでやっていない。

静粛性や燃費性能は立派なものだったが、XC90はマイルドハイブリッド化のさい、エンジン側も気筒休止機構実装、フリクションロス低減などの大改良を受けている。好パフォーマンスのうちどのくらいがマイルドハイブリッドのおかげなのか判然としなかったことを付け加えておく。

レクサスRXのストロングハイブリッドと比較


プレミアムラージSUVクラスのハイブリッドモデルの世界ベンチマークモデルといえば、3.5リットルV6ミラーサイクルエンジン+ストロングハイブリッドという豪華なシステムを持つレクサスの3列シートSUV『RX450hL』。車両重量2240kg、システム合成出力313psで、パワーウェイトレシオは7.2kg/ps。そのRX-Lに2019年に乗ったさいに計測してみた0-100km/h加速はスタンディングで8秒フラット。燃費は行程の5割が6名乗車だったというハンディはあったが、実測10km/リットル台であった。

もちろんRXハイブリッドには滑らかさ、6発エンジンならではのみっちりとしたエンジンフィール、強力な発電機構を持ちAC100ボルトで大電流を出せるなど、動力性能や燃費以外に付加価値となる部分がたくさんある。

また、CO2排出量についても欧州の新排出ガス測定サイクルWLTPのデータ上ではRX-Lが185g/kmであるのに対してXC90 B5は197g/kmと、メーカーの平均CO2排出量低減の面では依然としてRX-Lのほうが有利。ちなみにRX-LのパワートレインはV6エンジン、ハイブリッドシステムとも基本設計が古い。システムを更新すればストロングハイブリッドの優位性はもっと顕著に出るものと考えられる。

それでもドライブをしてみた実感としては、マイルドハイブリッドが思ったよりはるかにイケてることのほうに驚きを覚えた。日本市場では2009年にトヨタvsホンダのストロング・マイルド戦争が勃発し、トヨタのワンサイドゲームになったという出来事があった。

そのため、理屈ではマイルドにはマイルドのメリットがあると知ってはいたし、ホンダが第3世代『フィット』でストロング路線に移行した時には「マイルドはマイルドでシステムの小型軽量化を図れば、それはそれで生かせるから捨てるのはもったいない」などと論じたりもした。が、それでもマイルドハイブリッドは大したことはないという意識が知らず知らず筆者にも植わっていた。そのことを自覚する良い機会になった。

ハイブリッド技術の今後は


さて、ここでXC90から離れ、今回乗った実感をもとにハイブリッド技術の今後について考察を加えてみたい。

まず前提にあるのは、ハイブリッドはPHEVと区別されるべき技術であるということ。充電可能な大型電池を積むPHEVは、化石燃料由来以外のエネルギーも使うことができる脱石油技術。それに対して通常のハイブリッドはクルマにつぎ込む燃料ですべてが完結している。すなわち省燃費技術のひとつにすぎない。よく、電動化率〇%などという目標が提示されることがあるが、エネルギーシフトという観点からはハイブリッドを電動化率に含めるのはちょっとご都合主義と言える。

そのハイブリッド、スタートからストップの1ドライブトータルでの燃料消費量を節減できて初めて意味を持つのだが、一方で性能に対して価格がリーズナブルでなければ販売台数を稼げず、平均CO2排出量を下げることができない。そのバランスをどう取るかがHEV化のカギを握っている。

大幅にCO2を下げるという観点ではこれまでストロングハイブリッドの独壇場であった。ガソリンエンジンはディーゼルエンジンに比べて熱効率の高い範囲が狭く、エンジン回転数やスロットル開度が低すぎても高すぎても効率が落ちる。巡航している時は負荷をかけるためにエンジンに発電させ、負荷の高いときにはモーターがアシストしてエンジンの負担を落としてやるなど、狭い熱効率の部分をなるべく外さない運転モードを維持することが燃費向上の重要な要素となっていた。その制御幅を広く取るには1モーター、2モーターを問わず、モーターの発電能力がモノを言う。これがストロングの強さの理由のひとつだった。

ガソリンエンジンの高効率な範囲が広がると、この構図は崩れる。それをほんのちょっぴり予感させたのが今回のドライブでのXC90のパフォーマンスだった。効率が同じならエネルギー変換時にロスが出る発電を行わず、エンジンで得られた運動エネルギーを直接駆動に使ったほうがトクである。ガソリンエンジンがディーゼルエンジンのように低負荷から高付加まで似たような効率で運転可能になれば、電気部分への依存度は低めたほうがコスト面での合理性が高まる。

今日、ガソリンエンジンには大きな技術革新の波が訪れており、エンジニアの間から遠くない将来、効率のピーク値と高効率範囲の両面でディーゼルをキャッチアップできるという強気な声も出始めている。もしそうなれば、電気駆動に大きなプライオリティを置く必要のあるPHEVはともかく、普通のクルマの燃費を上げるにはマイルドハイブリッドで十分という時代が来る可能性は十分ある。

マイルドハイブリッドの積極投入は続くのか


もっとも、そうなるためにはマイルドハイブリッドの技術ももっと進化する必要がある。今回のボルボXC90をはじめ、欧州勢が使っているハイブリッドシステムは電圧48Vのものが主流。これは技術的な合理性ゆえの規格策定ではなく、欧州ではクルマ内の電圧が60V以上になると安全策をいろいろと負荷しなければならず、それを超えない12Vの倍数の上限値を取っただけのこと。欧州の大手部品メーカーのサプライヤー関係者もこの2倍、すなわち100V前後なら効率面でずいぶん楽になるのだがと語っていた。

そういう規制緩和が行われればマイルド勢は伸長するだろうが、昨今欧州でやたらと内燃機関禁止という政府目標が持てはやされている。今後10年ないし15年で売り物にならなくなるのなら、現有技術で乗り切ってしまえと考えてそういう検討が行われない可能性も大きい。

ハイブリッド機構の高度化も不可欠。燃費計測がWLTPであろうと従来のNEDCであろうと、この先は走行中にエンジンを停止させることがCO2低減にとって重要になるというのがもっぱらの見方。ベルトドライブや電気モーターのエンジン直付けのようにエンジン停止が難しいシステムから早く卒業し、変速機以降に電気モーターを置き、エンジンと駆動系を切り離せる、最初からハイブリッドであることを前提としたパワートレインにしていく必要があろう。


マイルドハイブリッド、現時点では欧州メーカーが攻勢をかけているが、今後もこの展開が続くとは限らない。基本的にエンジン、電気モーターが混在する電動化については、システム設計、生産技術とも依然として日本勢が大きくリードしている。これまでストロングで勝ち続けてきたがゆえに発想の多様化が進んでいないだけで、マイルドで十分にハイブリッド化によるCO2低減幅を確保でき、客もついてくるのであれば、たちどころに優秀な製品を投入可能であろう。

もう一点、ストロングのネックであるパワー半導体やバッテリーなどの高額部品が劇的に安くなれば、ストロングのコスト競争力が高まり、マイルドを駆逐するということも考え得る。

いずれにしても、最もベーシックな電動化技術の利用形態であるHEVのこれからの様相は、トヨタが『プリウス』を初投入してから今までの二十余年とは次第に違ったものになっていくのではないか。場合によってはトヨタも普通のハイブリッドについては2モーターを捨てて1モーターに転換する可能性だってある。

欧州各国政府のドラスティックなEV転換構想への対応を迫られていることから、HEVを含めた普通のクルマの技術革新については欧州メーカーの足が止まり気味になっている。EV転換が失敗に終われば日本勢があっという優位という状況が生まれるが、彼らが強引にでもEV転換を進めれば、日本勢の技術開発の多くが無駄になる。各国政策を含め、今後の情勢の推移から目が離せそうにない。

《text:井元康一郎》

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