車内にて本格的なオーディオシステムを構築しているドライバーの多くは、外部パワーアンプを活用している。しかし、純正品でも市販品でもメインユニットには普通、パワーアンプが内蔵されている。つまり、外部パワーアンプは「絶対に必要なもの」ではないのだ。
にもかかわらず大半の愛好家に外部パワーアンプが使われているのはなぜなのだろうか。当記事ではその理由から、賢い選び方&使い方、さらにはおすすめモデルまでを解説していく。カーオーディオに興味を持ち始めた貴方は、要熟読!
パワーアンプの役割とは?
最初に、「パワーアンプとは何なのか」から説明していこう。ひと言で言うならパワーアンプとは、「音楽信号を増幅するための装置」だ。
ではなぜにそのような機器が必要なのかと言うと、理由は単純明快だ。「スピーカーを動かすためには大きな電力が必要だから」だ。それなりの音量で音楽を再生するには、空気を十分に震わせる必要がある。そうするためにはスピーカーの振動板をしっかりと動かさなければならない。
もう少し踏み込んで説明しよう。スピーカーは、磁気回路に電気を流すことでフレミングの左手の法則に従って動力を得て、その力を振動板に伝えて音を生む。このメカニズムを成り立たせるためには、磁気回路に相応に大きな電力を送り込まなければならないのである。
内蔵パワーアンプと外部パワーアンプとの違いは?
メインユニットに内蔵されているパワーアンプには、多くを望めない!?
このようにパワーアンプはカーオーディオシステムにおいて不可欠なので大抵、純正メインユニットにも市販のAV一体型ナビやカーオーディオメインユニットにも内蔵されている。
しかし…。純正であれ市販品であれ、メインユニットに組み込まれているパワーアンプに多くを望むのは酷だ。なぜならば、それら内蔵パワーアンプは「制約の中で作られているから」だ。
制約とは主に2つある。1つは「スペース的な制約」で、もう1つは「コスト的な制約」だ。というのもパワーアンプは基本的に、高性能を得ようとするほど筐体が大きくなる。よりパワフルに、そして良質に音楽信号を増幅しようとすると、より大きなパーツを使った方が有利だからだ。
そしてより高級なパーツを使った方が、質良く信号を増幅できる。ゆえにより良いパワーアンプを作ろうと思えば、大きくもなるしコストもかさむ。
外部パワーアンプは、音質性能が段違いに上!
しかしながら純正メインユニットも市販メインユニットも、ごくごく小さい。ちなみに市販のメインユニットは1DINもしくは2DINサイズで作られている。1DINとはタテ50mm×ヨコ178mmで、2DINはタテ100mm×ヨコ178mmという大きさだ(奥行きは機器ごとで異なる)。このような小さな筐体の中にさまざまなメカを入れ込む必要がある。結果、内蔵パワーアンプに割り当てられるスペースはごくわずかしかない。
コストについてもしかりだ。価格競争を勝ち抜くためにはある程度低価格に仕上げなくてはならず、その中で内蔵パワーアンプに掛けられるコストはさらに限られる。
対して外部パワーアンプは、スペースについてもコストについても絶対的な制約はない。ある程度大きく作っても良く、そして信号を増幅するためだけにコストを注げる。例えば5万円のAV一体型ナビと5万円のパワーアンプとがあったとしたら、パワーアンプの性能のみを比べた場合、後者の方が圧倒的に優秀だ。
外部パワーアンプのいろいろ
ch数違いがさまざまある!
ひと口に外部パワーアンプと言っても、さまざまなタイプがある。
まずは「ch数違い」が存在している。主には4タイプがある。「1ch(モノラル)タイプ」「2chタイプ」「4chタイプ」「多chタイプ」、以上の4つだ。
ところでステレオ音源は音楽が左右のchに分けて録音されているので、その両方を再生するにはパワーアンプは最低2ch分が必要となる。なので、ベーシックな接続方法でフロントスピーカーを鳴らそうとするときには、「2chタイプ」を1台用意すればOKだ。
一方「1chタイプ」は、サブウーファー用である場合が多い。サブウーファーが鳴らす超低音は指向性が弱いのでステレオ効果が得られにくい。なのでむしろモノラルで鳴らした方がコントロールもしやすくなる。
または、ハイエンドモデルの中にも「1chタイプ」の機種がいくつかある。システム構築法の1つに「マルチアンプシステム」というものがあるのだが、これを実践する際には各スピーカーユニットに対してパワーアンプの1chずつをあてがうことになる。高級な「1ch」パワーアンプは、これを実行するときに使うものという性格が強い。パワーアンプも1chごと別体にすると、ch間での信号の干渉がなくなり音に効いてくるのだ。
使いやすいのは「4chタイプ」!
けれどカーオーディオにおいてもっとも使われることが多いのは、「4chタイプ」だ。なぜなら使い勝手が良いからだ。「4chタイプ」なら1台でフロントスピーカーとリアスピーカーの両方を鳴らせるし、フロントスピーカー+サブウーファーというスピーカーレイアウトを敷くときもそれらを1台で鳴らしきれる。
または、先述したような「マルチアンプシステム」でフロント2ウェイスピーカーを鳴らそうとするときにも、1台の「4chパワーアンプ」があれば対応可能だ。
そして「多chタイプ」とはch数が5つ以上確保されたモデルのことを指す。このタイプは、複雑なシステムを1台の外部パワーアンプでまかないたいと思ったときに活用される。
「動作方式」にも違いがある!
もう1つ、「動作方式」にも違いがある。パワーアンプは基本的な仕組みは機種ごとで大きくは違わないのだが、しかしながら音楽信号の増幅の仕方には細かくはタイプ違いが存在している。
カーオーディオで使われることが多い動作方式は、「A級」「AB級」「D級」この3つだ。ちなみに各アルファベットは優劣を表すものではない。単なる名称だと理解してほしい。
そしてそれぞれには特徴がある。ざっと説明すると以下のとおりだ。「A級」は効率は良くないが、音質性能的には利がある。対してカーオーディオのパワーアンプでは採用されていないが、「A級」といわば真逆の仕組みを持つ「B級」も実は存在していて、こちらは高効率ではあるものの音質性能的には不利がある。
で、「AB級」とは、「A級」と「B級」の良いとこ取りをしたものだ。そしてカーオーディオにおいてはこれがもっともスタンダードだ。効率も悪くなく音質性能も良好だからだ。
最近の注目株はズバリ、「D級」!?
一方「D級」は、他の2つと比べて独特な仕組みを持っている。そして特徴的にも異彩を放つ。まず大出力が得られやすく、高効率かつ省電力だ。そして発熱も少ない。さらには大出力の割に小型化も可能だ。なので、大パワーが必要となるサブウーファー用のパワーアンプでは「D級」が採用されることが多くなっている。
ところで、「D級パワーアンプ」は音質性能的には不利だと言われることが多かった。しかし最近は、その不利を感じさせないモデルが多い。小型で高効率なパワーアンプが良いと思ったら、「D級」のフルレンジモデルに注目しよう。
ちなみに「D級パワーアンプ」には案外、超高級品は少ない。なぜなら「A級」や「AB級」のパワーアンプはコストをかければかけるほどどこまでも高性能化していくのだが、「D級」はそうとも限らない。リーズナブルに仕上げてもある程度の高性能が得られやすく、逆にコストを掛けたからといってどこまでも性能が上がっていくというものでもなかったりもする。
外部パワーアンプの選び方
「聴いて選ぶ」のが鉄則!
外部パワーアンプを選ぶ際には、まずはどのタイプにするかを考えてある程度の候補を絞り込みたい。そしてその後は、「聴いて」選ぶのが鉄則となる。スペックもある程度は参考になるものの、それにて各機の特徴のすべては推し量れない。実際に音を出してみないと、音色的な特徴は分からない。
ただ、各カーオーディオ・プロショップの店頭では、パワーアンプの試聴機の数はある程度限られる場合が多い。なのでマイベストを見つけ出すためには、いろいろなお店を回った方が良いだろう。またお店に行くとデモカーが用意されていることも多く、さらには来店している他のユーザーカーの音も聴かせてもらえたりもする。もしもショップに足を運んだら、聴かせてもらえる車両については積極的に試聴しよう。
また、ショップ店頭では試聴会イベントが開催されることもあり、そのときには普段よりも多くのモデルを試聴できたりもする。アンテナを高くしておいて、そういった情報は漏れなく掴みたい。
スピーカーとの相性も重要!?
なお、使用するスピーカーによって、そしてそれをどのようなサウンドで鳴らしたいかによっても選ぶべきモデルが変わってくる。製品選択の際には、その組み合わせの妙にもこだわろう。
で、組み合わせを考える際には、次のような観点を持つと選びやすくなる。1つは「愛用のスピーカーの特長を伸ばせるパワーアンプ」、もう1つは「愛用のスピーカーの足りない部分を補えるパワーアンプ」、この2点だ。使っているスピーカー(将来的に使いたいスピーカー)の特徴を把握し、良さを伸長できるもの、あるいは欠点をカバーできるものを見つけ出そう。
とはいえ、そこのところを見極めるのは簡単ではない。となると頼りになるのは、カーオーディオ・プロショップのアドバイスだ。積極的に質問して、助言を得ながら選定を進めよう。
ボディの大きさは性能に影響する?
ところでタイプ解説の中で、「A級」と「AB級」のパワーアンプはコストをかければかけるほど高性能化していくと説明したが、結果、高性能なモデルほど大型化していく傾向もある。性能を上げるには、投入する物量がものを言うからだ。
例えば電源部は高性能を得ようとすると大型化しやすく、電源部が大型化すると発熱量も増えるので、熱を逃がす役目を負うヒートシンクと呼ばれる部分も大型化してくる。なので、より良いモデルを手にしようとするのなら、ある程度大きくなることを覚悟したい。
とはいえ、取り付け上の都合も大事だ。取り付けたい場所が決まっているのなら、そこに収められるものの中からチョイスをしよう。ただし、性能を優先させたいとなると取り付けの都合は二の次にせざるを得なくなる。このこともまた、頭の片隅に置いておきたい。
外部パワーアンプの取り付け方について
どこにどうやって付けるべき?
外部パワーアンプの取り付け場所としてもっともスタンダードなのは、シート下だ。シート下であれば車体側をほとんど改造せずに装着できるので取り付けコストが掛かりにくい。
なお、複数台使いたい場合や大型のモデルを導入したい場合には、設置場所はトランクが有力候補となってくる。で、トランクに積まれる場合にはフロアに埋め込まれるケースが多い。
取り付け費用は、シート下のときと比べて多く掛かる。簡易的に仕上げるにしてもラックを作って埋め込んだ方が良く、あとはフタを作るのにも手間が掛かる。とはいえ、凝った化粧板を製作しなければ、案外低コストで仕上がったりもする。
ちなみにシート下に設置する場合でも、下に固定用のボードを設置した方がベターだ。そうすることでよりしっかり固定でき、音的にも利が得られる。
外部パワーアンプを使う場合には、ケーブルにもこだわりたい!
家でも車でも、オーディオではケーブルの質も最終的な音の完成度に大きく影響する。で、せっかく外部パワーアンプを使用するのであれば、ケーブルに対しても一層気を遣いたい。
特に「ラインケーブル」は重要だ。「ラインケーブル」とは、メインユニットやプロセッサーから音楽信号を引き入れるためのものなのだが、そこを流れる音楽信号は微弱な状態のままなので、伝送中にノイズの影響を受けやすくまた導体の質の良し悪しの影響も受けやすい。予算の許す範囲の中でより良いものを選びたい。
あと電源配線は基本的に、メインバッテリーから直接電気を引き込む「バッ直」というやり方が成される。外部パワーアンプは電気をたくさん必要とするので、電源の安定的な供給が不可欠だからだ。ここのところにもコストが掛かるが、「バッ直」に掛かる分は必要経費だと心得たい。そして、ある程度良いケーブルを使って行うとベターだ。
外部パワーアンプ、おすすめ5選
プラグ アンド プレイ・PLUG&PLAY POWER(税抜価格:3万5000円)
“プラグ アンド プレイ”は、国産ハイエンドカーオーディオメーカー“ビーウィズ”がプロデュースする新進気鋭のブランドだ。「本格派のサウンドを手軽に手にできる」ことをコンセプトに、インストール性が高くリーズナブルで、しかし音の良いモデルを多彩にラインナップしている。
当機も、お手頃価格で小型、そして高性能であることが特長だ。動作方式は高効率なD級だ。定格出力は70W×2ch(4Ω)と十分なスペックが確保されていながらも、横幅は124mmしかない。
デザインにも風格がある。日本の伝統色を意識した梨子地仕上げのソリッドアルミニウムボディが採用されている。使いやすくも手応えあるモデルをお捜しなら、当機に注目を。
モレル・MPS 4.400(税抜価格:6万4000円)
“モレル”は、イスラエル発のブランドだ。ラインナップはスピーカーが中心で、エントリーモデルから超ハイエンド機まで幅広く優良製品を取り揃えている。
なお2018年には遂にパワーアンプもリリースした。それがこの『MPSシリーズ』だ。3モデル展開となっていて、4chモデルである当機の他には、D級回路を持つサブウーファー用の1chモデルと、それらを合体させた5chモデルとがある。当機の動作方式はAB級で、定格出力は70W×4ch(4Ω)、サイズは315mm×170mm×63mmだ。
手頃なAB級の4chパワーアンプを物色しているならば、当機のサウンドもぜひご確認を。
シンフォニ/クワトロリゴ・プレシジョンワン(税抜価格:14万円)
“シンフォニ/クワトロリゴ”は、魅力的なスピーカーとパワーアンプを豊富に展開するイタリア発のハイエンドカーオーディオブランドだ。
パワーアンプにおいては、超ド級のハイエンドモデルも擁しているが、当機はミドルグレードモデル。動作方式はA級でch数は2。音にこだわったHi-Fiモデルという色彩の濃い意欲作だ。
なお定格出力は35W×2ch(4Ω)と比較的に小さめだ。A級であるので電力を多く必要とすることもあり、その分パワーは控えめとなっている。とはいえ実用上問題はなく、音質性能は確かで評判も上々だ。
A級パワーアンプに興味があれば、当機のチェックもお忘れなく。
カロッツェリア・PRS-D800(税抜価格:3万5000円)
国産人気ブランド“カロッツェリア”も、外部パワーアンプを豊富にラインナップしている。ハイエンドモデルもいくつか持っているが、当機はそれらと比べるとお手頃。しかしながら“ハイエンドの入門機”とも言うべき確かな性能を備えている。
動作方式にはD級が採用されているので、ボディはなかなかにコンパクト(255mm×50mm×104mm)。それでいてパワフル。定格出力は125W×2ch(4Ω)を発揮する。
ちなにに当機は、サブウーファー用アンプとして使われることも多い。スピーカーの振動板を動かす能力と止める能力の両方が高いので、レスポンスの良い超低音を奏でられる。
ビーウィズ・P-1R(税抜価格;18万円)
当機は、 “ビーウィズ”のフラッグシップパワーアンプだ。ch数は1ch。しかし当機はサブウーファー専用モデルではなくフルレンジタイプ。つまり高度な「マルチアンプシステム」を構築するためのパワーアンプと言うべきモデルだ。これにてそれを実行すると、良好なchセパレーションが得られる。定格出力は、100W×1ch(4Ω)、サイズは230mmx80mmx43mm。筐体には音響専用マグネシウム合金が使われている。
ところでビーウィズは、プロセッサーも左右chごとで、または各chごとでの独立使用も可能としている。とことん高音質な「マルチアンプシステム」を組もうとするとき、ビーウィズの各ユニットは存分に力を発揮する。
まとめ
一般的なメインユニットに内蔵されているパワーアンプは、とにかく非力だ。クルマのエンジンと同じように、パワーがあると余裕が生まれる。外部パワーアンプは、その点において絶対的に有利だ。そのパワー差が音楽の表現力を高め、情報量の増加を生む。リーズナブルなモデルであっても、内蔵パワーアンプと比べての一定のアドバンテージを発揮する。
愛車のカーオーディオシステムの実力を引き上げたいと思った際には、外部パワーアンプの力を借りよう。使って後悔することはないはずだ。導入の検討をぜひに。
太田祥三|ライター
大学卒業後、出版社に勤務し雑誌編集者としてキャリアを積む。カー雑誌、インテリア雑誌、そしてカーオーディオ専門誌の編集長を歴任した後、約20年間務めた会社を退職しフリーに。カーオーディオ、カーナビ、その他カーエレクトロニクス関連を中心に幅広く執筆活動を展開中。ライフワークとして音楽活動にも取り組んでいる。
《text:太田祥三》