【VW ゴルフ ヴァリアント TDI 3900km試乗】ステーションワゴンの魅力とは何か[後編] | Push on! Mycar-life

【VW ゴルフ ヴァリアント TDI 3900km試乗】ステーションワゴンの魅力とは何か[後編]

自動車試乗記
VW ゴルフ ヴァリアントTDI ハイラインマイスター。夕刻の薩摩半島南端を走行中。背後に見えるのは本土最南端の火山、開聞岳。
VW ゴルフ ヴァリアントTDI ハイラインマイスター。夕刻の薩摩半島南端を走行中。背後に見えるのは本土最南端の火山、開聞岳。全 46 枚拡大写真

フォルクスワーゲンのCセグメントステーションワゴン『ゴルフヴァリアントTDI』での3900kmツーリング。前編では長駆するときの最重要ポイントのひとつである走りと乗り心地、および運転支援システムについて述べた。後編ではパワートレイン、スペース&ユーティリティ、インフォティメントについて触れていこうと思う。

「事務的なフィール」も好感触なTDI

150psターボディーゼルは必要十分なパワーを持つが、上級モデルのパサートTDIの190ps版に比べると性能的な落差は明確に感じる。
ゴルフヴァリアントTDIのパワートレインは2リットルターボディーゼルと7速デュアルクラッチ変速機「DSG」の組み合わせ。エンジンスペックは最高出力110kW(150ps)、最大トルク340Nm(34.7kgm)。以前本コーナーでお届けした『パサートTDI』に比べて30kW(40ps)、60Nm(6.1kgm)のビハインド。湿式クラッチ「DSG」のほうは1段増えて7段と、逆にゴルフヴァリアントのほうにアドバンテージがある。

そのパワートレインのパフォーマンスだが、いかにも実用一点張りという印象が非常に強かった。パサートTDIとの差は絶対性能、官能性の両面でドライブ前に想像していたより大きかった。高回転に向けて引き寄せられるような回転上がりのドラマチックさはなく、中高回転で『ポロGTI』のエンジンに似た咆哮を上げることもない。どの回転数でも「与えられた仕事を自分の能力の範囲内でちゃんとやりますよ。それで文句ありませんね」という、いささか事務的なフィールである。

VW ゴルフ ヴァリアントTDI ハイラインマイスター。何の変哲もないワゴンスタイルだが、ウインドウのベルトラインを大きく下げ、窓面積をできるだけ広く取るよう見事にデザインされているのがわかる。
もっとも、ゴルフヴァリアントのキャラクターに照らし合わせると、そういう事務的なキャラクターは別にネガティブには感じられなかった。正直、スムーズかつ経済的に走れればそれでいいのである。そういう観点では市街地から山岳路まで、過不足は感じられなかった。パサートと同様、軽負荷ではアクセルペダルを深く踏み込まないかぎりスロットル開度を相当絞り気味にするセッティングがなされているとみえて、普段のような感覚で運転していると力感が薄く感じられる。

ディーゼルらしさが如実に体感されるのは山岳路の登り急勾配や過荷重のとき。4人+貨物でのドライブ時など、回転を上げずとも1名乗車と大して変わらない感覚で運転できるのは新鮮な衝撃だった。たとえとして適切かどうかは疑問だが、言うなればトルク・オン・デマンドではなく加速度・オン・デマンド的なチューニングであるような印象を受けた。

緩い登り勾配での0-100km/h加速タイムはスロットルを踏んだ瞬間からGPSによる実測100km/h(メーター読み103km/h)までが10秒1、メーターが動いた瞬間からメーター読み100km/hでは9秒3。パワーウェイトレシオ約10kg/psのモデルとしては速くはないが遅くもなく、中庸といったところであろう。

ディーゼルのAT車としては十分に良い燃費

VW ゴルフ ヴァリアントTDI ハイラインマイスター。
燃費は110kW級ディーゼルのAT車としては十分に良い数値であった。区間ごとの満タン法による実測燃費を紹介すると、新東名を含む高速と一般道が半々の東京~奈良・天理間544kmが21.9km/リットル、天理から福岡北部の直方まで高速・一般道・山岳路を混走した654km区間が22.0km/リットル、直方から鹿児島に達し、鹿児島で市街地、郊外、空港送迎をこなすなどした860km区間が17.5km/リットル。

さらに鹿児島市街および郊外を300kmほど走った後で帰路に着き、往路と同じ福岡・直方の給油所までの631kmが18.8km/リットル。直方から山陰道、福井の鯖街道などさまざまな場所を周遊しながら名古屋西部に達した835kmが21.9km/リットル、そこから静岡西部の浜松までの131kmはバイパスをおとなしく走って24.1km/リットル、浜松から東京へ帰着する高速ルートが22.4km/リットルであった。

エコランはせず良いペースで走る一方、惰力はうまく使うというドライブパターンでのざっくりとした燃費のイメージは市街地15km/リットル、郊外路&高速が22km/リットル、山岳路18km/リットルといったところだろう。長距離では少々ラフに走っても平均燃費にはほとんど影響を及ぼさなかった半面、エコランをやってもパサートTDIほどには燃費を伸ばせなかった。

同じような質量、ディメンションのプジョー『308SW』1.5リットルターボディーゼル8AT(130ps/30.6kgm)のロングドライブスコアに対しては市街地、郊外、高速、山岳路の全ステージでゴルフヴァリアントがやや優位に立つという感じであったが、308SWがより走行抵抗の大きなスポーツタイヤを履いていたことを考慮すると、車両側の効率はほぼ互角といったところだろう。

4人がドライブの楽しさを享受できるシート

ドアを開放した図。後席ドアの開閉角度はそれほど大きくないが、ドア開口部のルーフ高が十分に取られており、乗降性は良好だった。
室内&スペースユーティリティに話を移す。居住区についてはハッチバック車とほぼ同一仕様で、使い心地に関する印象もまったく同じ。ミニバンのようなだだっ広さはないが、前後席ともスペース的には十分で、かつ着座して移動するさいの収まり具合もいい。

シートは前席についてはきわめて良くできており、長時間ドライブでも座面と接する大腿部のうっ血感はごく軽く、疲労もたまりにくかった。後席については長時間連続着座をやっていないが、こちらもタッチは良い。ホールド性が優れているのも美点で、4人が同じようにドライブの楽しさを享受できるような仕立てになっていた。

疲れ知らずの前席。右ハンドル仕様の自然な運転姿勢の一点においてはパサートを上回っていた。
トリムは遊び心は希薄なものの、おおむね上質かつ機能的に作られている。前席は収納箇所が多く、容量も大きい。ドアポケットには起毛タイプの内張りが張られ、モノを入れた時に車体の振動でカラカラ、ビリビリという音が出ないようになっている。後席にも巨大なドアポケットがつき、ロングドライブ時の利便性は高そうであった。

ただ、前席はドア内装の樹脂部がソフトパッドになっているのに対して後席はハードプラスチックであるなど、懸命なコストダウンの跡も見え隠れした。

ダブルフォールディングはなくなってしまったが

工夫次第でいくらでも荷物を詰めそうなラゲッジスペース。
荷室はさすがに広い。シートバックを立てた状態で600リットル超というスペースは、長期アウトドアのためのキャンプ用品、別荘暮らしのための布団運び等々、何でもござれであろう。後席のシートバックを倒すとさらに1000リットルあまりの容量を稼げる。2名乗車ならモーグル用などの長尺モデルでなければスキー板くらいは楽勝、サーフボードも5フィート台なら室内積みできそうな勢いだった。

その荷室と居住区の間には巻き取り式のトノカバーが設置されているが、面白いことにその巻き取りバーには急ブレーキや事故時に荷物が居住区に飛び込んでくるのを防ぐパーティションネットがやはり巻き取り式で内蔵されていた。ワンタッチでパーティションネットを張ることができるのは取り外し式に比べて非常に便利。このあたりはフォルクスワーゲンの安全マニアらしさ全開という部分だった。

リアシートは広さ十分。窓からの採光も良く、居住感は抜群だった。
個人的にちょっと口惜しかったのはリアシートが座面、シートバックの二段折り畳み、すなわちダブルフォールディングでなくなったこと。筆者は昔、ゴルフIIの3ドアハッチバックのディーゼル、5速MTに乗っていたことがある。ハンドパワーステアリング、ハンドパワーウィンドウ、ハンドパワーリモコンドアミラー、マニュアルエアコンという超シンプル仕様だったが、後席はしっかりダブルフォールディングする仕様だった。

それを使うと荷室の床面がものすごく低くなり、まるで商用ライトバンのように大量の荷物を積載可能。磯釣りやキャンプなどに重宝することこのうえなかった。荷室長を稼ぐという点ではダブルフォールディングなしのほうが有利であろうから、それがなくなったのはあながち悪いとも言えないのだが、フォルクスワーゲンの伝統芸が消えたのはちょっと寂しい気がした。

便利きわまりないフル液晶の「DiscoverPro」

カーナビ表示時にはメーターサイズが小さくなる。瞬間燃費、平均燃費、航続距離などの走行情報はメーターに組み入れられており、それらの数字をセンターに表示させる意味はほとんどなかった。
コックピットのインストゥルメンタルパネルはフル液晶の「DiscoverPro」。本来は高価なオプションだが、ドライブした「マイスター」グレードには標準装備されているという。このDiscoverPro、2年半ほど前に東京~鹿児島ツーリングを行ったハッチバックの1.4TSIにも装備されていた。その時はオプション価格の高さに驚愕し、ノンプレミアムCセグメントには普通の計器で十分だろうと思った。

が、これが標準装備されるパサートでロングドライブをしたときは「ステアリングスイッチで縮尺変更可能なカーナビ画面をインパネに表示させられるのはメチャクチャ便利だし安全だなあ」としみじみと思った。それからそれほど時を置かずして今回のゴルフヴァリアントに乗ってみると、当然ながら同様に便利きわまりない。カーナビだけでなくオーディオ、電話などの操作も全部目線を前方から切ることなくできる。しかもそれらのグラフィックデザインが非常に見やすいものになっているのも印象的だった。

平均燃費、瞬間燃費、残り航続距離など、知りたくなる運転情報は計器に全部組み込まれているため、普段はずっとカーナビ画面を表示させておいて何の不都合もない。パサートの時と同様、センターコンソールに目を移す頻度は目に見えて減り、前方不注意のリスク削減にも大いに役立った。値段さえ安ければCセグメント以下にこういうのがついているのもいいものだと思った次第であった。

オーディオはオプションの「ディナウディオ」サウンドシステムが装備されていた。8スピーカー仕様で、カーゴルームのテンパータイヤスペースには低音拡張のための共鳴ボックスが設けられていた。その特性だが、ノーマルに対してパワーは優越、周波数レンジもとくに低音側で広いという感があった。半面、音のディテールの表現力や音場感はノーマルと大きな違いはない。ということで、基本的にはクラシックやジャズよりロック、ポップス、ハウスなどに向くという感じである。もちろんノーマルよりいいが、なければないで気にならないレベルだった。

まとめ

本土最南端の火山、開聞岳に向けて走る。
4000km近いツーリングを、身体、操縦感覚、使い勝手などいろいろな要素についてほとんど違和感を覚えることなく、高い経済性を保ちながら乗り切ることができたゴルフヴァリアントTDI。モデル末期の今も長旅派のユーザーにとっては素晴らしいツーリングギアとして長年の愛着に耐えるクルマになるだろうというのが率直な印象だった。内外のライバルに対して価格が高めというのが欠点と言えば欠点だが、それを納得しながらコンパクトクラスのワゴンとして選びたいと考えるなら、止める理由は何もない。

ライバル考。最大の強敵は本文中でも何度か引き合いに出したプジョー308SWの1.5リットルターボディーゼル「GT-Line」であろう。パワー、燃費、居住感はゴルフヴァリアントが若干上、貨物の積載性は互角、操縦性のアグレッシブさと走りの滑走感では308SWといった感じで、まさに好敵手と言えるだろう。ステーションワゴンという区分ではルノー『メガーヌ・スポーツツアラーGT』もあるが、エコパワートレインがないのでディーゼルとは競合しないだろう。

国産勢に目を移すと、そもそもCセグメントのステーションワゴンをラインナップしているのがトヨタ、スバルしかなく、うちスバル『レヴォーグ』はエコパワートレインなし。ホンダは『ジェイドハイブリッド』を用意していたが、2020年7月でモデル廃止という有様である。

結局競合しそうなのはトヨタ『カローラツーリング』のハイブリッドモデルくらいだが、居住区、荷室とも狭く、パワーも限られている一方で価格は100万円ほど安価と、事実上別クラスのようなものだ。ちなみに格下のBセグメントにはホンダ『シャトル ハイブリッド』がある。こちらは『フィット』ベースという成り立ちからして完全に別のクラスなのだが、荷室容量は何と570リットルもあり、この部分だけならヴァカンスエクスプレス仕様だ。

VW ゴルフ ヴァリアントTDI ハイラインマイスター。
セダンないしハッチバック派生のステーションワゴンがこれだけ下火になったのは、ヨーロッパではSUV、日本ではミニバンの増加が大きな原因であろう。欧州では生活臭を手軽に打ち消せるとあって、ステーションワゴンではなくSUVを選ぶ人が増えている。日本ではそもそも大量の荷物を積んでのヴァカンスライフが根づいていないうえ、速度レンジが低いためそれほどの安定性を必要としないことから積載性重視の場合はミニバンを選ぶ人が多数派。最近はそこにSUVも加わってきている。

もちろんそれぞれの車種にそれぞれの良さがある。大船に乗ったような気分がもたらす開放感であればSUV、これ1台あれば人だろうが荷物だろうがとりあえず何でも放り込めるという自在感ならミニバン。ではステーションワゴンの魅力とは何か――セダンやハッチバックと変わらない低重心設計によるタフな走りと積載性の両立であろうか。

そういう価値観はいささか古典的な部類に属するものになりつつあるが、それならではの楽しさは今も確実に存在する。ゴルフヴァリアントはそんなコンパクトワゴンのなかでも大変バランスの良いモデルとして、ワゴン好きには大いにおススメできるモデルであった。

余計な装飾をほとんど入れないのがゴルフの伝統美。いつまで守れるか。

《井元康一郎》

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