ダイヤトーンから新しいスピーカーDS-G50が発表された。これまでDS-SA1/SA3というハイエンドモデルで話題を集めてきたが、今回はそれらとは違った新機軸を打ち出している。その核心となる振動板素材について、まず触れてみることにしたい。
スピーカーの振動板素材としては、伝統的なパルプ(ペーパー)のほか、ポリプロピレンやメタル、ファブリックなどが使われてきたが、近年はそれらの組み合わせとしての新素材はあるものの、材質そのものとして新しいものは開発されてこなかった。ところがこのDS-G50では、その材質から新規に開発が行われている。NCVというのがそれだ。
一般に振動板素材に求められる性能は3つ。軽量、高剛性、内部損失がそれだ。このうち前2者は伝搬速度という尺度で表すことができるので、結局高伝搬速度、高内部損失と言い換えることができる。
例えばアルミやチタンなどの金属は伝搬速度は速いが、内部損失が低い。つまり鳴きやすいということだ。逆にポリプロピレンやパルプは内部損失が高く鳴きにくいが、伝搬速度は低い。つまりこの2つは相反する性質だということがわかる。
新素材NCVは、カーボンナノチューブを樹脂に配合したもので、射出成型が可能である。樹脂の内容などはもちろん企業秘密だが、ともかくチタンと同等の伝搬速度を持ちながらパルプなどに匹敵する内部損失も備えている。つまり相反する性質が非常に高度の次元でバランスした素材ということである。
実際に触れたり叩いたりしてみるとわかるが、ポリプロピレンなどに比べて明らかに硬く、しかも金属のようなカンカンという共振音がしない。
こうした性質を得るため最近では金属にパルプやセラミックコーティングなどとの組み合わせを行ったり、特殊な合金を使用したりして鳴きを止めている例も少なくない。しかし1種類の素材でそれができるということは大変な発明で、射出成型ができることからウーファーにもトゥイーターにも応用が可能だ。つまり全帯域を1種類の素材でカバーすることができ、音色の統一という点でも非常に有利となる。
次回は実際の製品がどのように作られているか、その内容について触れることにしたい。
《text:太田祥三》