ECUチューンのさらに先にあるのがフルコンピューター化だ。純正ECUの制約を離れ、エンジン制御を大幅に自由化できるのが最大の特徴。MoTeCやLink、Haltech、F-CON V Proなどが代表的な選択肢となる。
◆ECUチューンとフルコンは何が違うのか
純正ECUの書き換えチューンは、自動車メーカーが設定したECUのデータを書き換えて燃料噴射や点火時期、ブースト圧などを最適化する方法だ。一方、いわゆるサブコンは純正ECUと各種センサーやアクチュエーターの間に入り、信号を補正することで制御を変更する。
それに対してフルコン化は、エンジン制御の中心をMoTeCやLink、Haltech、F-CON V Proといった社外コンピューターへ移す方法だ。
大きく分けると次のような違いになる。
・ECU書き換え:純正ECUを生かしながらデータを変更する
・サブコン:純正ECUの信号を補正して制御を変更する
・フルコン:社外ECUを中心にエンジン制御そのものを構築する
ただし「フルコン=純正ECUを完全に取り外す」とは限らない。近年の車両ではABSやメーター、エアコン、ボディ制御など複数のコンピューターがCAN通信で連携しているため、純正ECUを残しながらエンジン制御を社外ECUへ任せるケースもある。
フルコン最大のメリットは、チューニング内容に合わせて制御を自由に構築できる拡張性の高さだ。さらに古い車両では、現代の高性能な社外ECUへ変更することで制御能力や機能面を大幅にアップデートできる場合もある。
◆旧車に現代のフルコンを導入するメリット
例えばS15型日産『シルビア』やホンダ『S2000』は1999年に登場したモデルで、すでに四半世紀以上が経過している。それでも現在までストリートやサーキットで走りを楽しんでいるオーナーは多い。
当時のパソコンに目を向けるとWindows 98/98 SEが使われ、CPUは数百MHz、メモリも数十MBから100MB台という時代だった。
もちろんパソコン用CPUと自動車用ECUのマイコンを単純に比較することはできない。しかし車載コンピューターもこの四半世紀で大きく進化し、現在の社外ECUでは高速な演算処理に加え、多数のセンサー入力、CAN通信、データロギング、ノック制御、エンジン保護機能などを利用できる製品が増えている。
そのため古いクルマに現代のフルコンを導入すると、燃料噴射や点火時期などをより細かく制御できるようになり、アクセル操作に対するレスポンスや始動性、アイドリング、過渡特性などを改善できる可能性がある。
ただしフルコンを装着しただけで、200psだったエンジンが300psになるわけではない。ノーマルエンジンであればピークパワーの伸びしろは限定的な場合も多く、最大出力よりもレスポンスや扱いやすさ、セッティング自由度の向上にメリットを感じるケースもある。
◆ターボ化からローンチコントロールまで拡張性が魅力
フルコンの真価が発揮されるのは、エンジン本体まで手を加えるハードなチューニングだ。
例えばNAエンジンをターボ化した場合、インジェクター容量や燃料噴射量、点火時期、ブースト圧など多くの項目を変更する必要がある。純正ECUでは変更できる範囲に制約がある車種でも、対応するフルコンであれば仕様に合わせて制御を構築できる。
さらに製品や車両の仕様によっては、アクセルを戻さずにシフトアップするフラットシフト、シフトダウン時にエンジン回転数を合わせるオートブリッピング、設定した回転数を維持して発進をサポートするローンチコントロールなども組み込める。
ほかにもブーストコントロール、トラクションコントロール、アンチラグ、ノック制御、データロギング、油圧や燃圧が異常値になった際のエンジン保護など、多彩な機能を備えるフルコンもある。
単に燃料と点火を調整するだけではなく「車両に必要な制御を追加できる」のが現代のフルコンの大きな魅力だ。
一方ですべてのフルコンに同じ機能が備わるわけではなく、使用できる機能はECU本体、車種、センサー、配線、トランスミッションなどによって異なる。高度な機能を使いたい場合は、ECU選びの段階からチューナーに相談しておくことが重要になる。
◆フルコン化は配線製作とセッティングに費用がかかる
フルコンには大きなメリットがある一方、導入のハードルは決して低くない。
一部には車種専用ハーネスを使って接続できるプラグインタイプも存在するが、すべての車種で簡単に取り付けられるわけではない。汎用タイプではクランク角、カム角、スロットル、水温、吸気温など各種センサーの信号を確認しながらハーネスを製作し、フルコンへ正しく接続する必要がある。
この配線作業には知識と時間が必要で、プロショップではチューナーが車両ごとにハーネスを製作するケースもある。車種や仕様によっては配線製作だけでも大きな工賃が必要になる。
さらに取り付ければ終わりではない。
エンジンを始動する前に基本となるデータを作り、始動後は空燃比や点火時期、各種補正値などを確認しながらセッティングを進める必要がある。実走行やシャシーダイナモを使った現車セッティングまで含めれば、相応の時間と費用がかかる。
例えばフルコン本体が20万円台だったとしても、ハーネス製作、追加センサー、取り付け、現車セッティングなどを合わせることで総額50万円を超えるケースも考えられる。費用は車種やエンジン仕様によって大きく変わるため、本体価格だけで判断しないことが重要だ。
◆フルコンのデメリットと失敗しないためのポイント
自由度の高さはフルコン最大のメリットだが、それは同時にデメリットにもなり得る。設定できる項目が多いからこそ、セッティングが適切でなければ始動性やアイドリングが悪化したり、エンジン本来の性能を発揮できなかったりする可能性がある。
センサーや配線のトラブルが原因で不調になるケースも考えられるため、日常的に使用するクルマでは性能だけでなく信頼性も含めたセットアップが欠かせない。
対策として重要なのは、フルコン本体の価格だけで製品を選ばず、そのECUに精通したショップやチューナーに依頼すること。車両の用途が街乗り中心なのか、サーキット走行なのか、エンジンチューニングを今後どこまで進める予定なのかまで伝えた上でシステムを構築したい。
またフラットシフトやローンチコントロールなど、製品によっては競技用途を前提とする機能もある。使用する機能や車両仕様については、取り付けを依頼する専門店で公道使用や車検への適合を含めて確認しておきたい。
費用と手間だけを考えれば、純正ECUの書き換えで十分なクルマも多い。反対に大幅なエンジンチューニングを予定している車両や、純正ECUでは実現できない制御を取り入れたいクルマでは、フルコン化が強力な選択肢となる。
フルコンは「装着すれば速くなるパーツ」ではない。エンジンや車両の仕様に合わせて制御そのものを作り込めることに価値がある。コストやセッティングの難しさといったデメリットまで理解した上で導入すれば、古いクルマから本格的なチューニングカーまで、その可能性を大きく広げてくれるアイテムなのだ。


