ブレーキローターのスリットやドリルド加工には何の意味があるのか。見た目だけではない効果と注意点を整理する。
◆スリットローターとドリルドローターは何が違うのか
高性能なスポーツカーやサーキット走行向けのブレーキローターには、穴が開けられたドリルドローターや溝を設けたスリットローターが使われることがある。では、このスリットやドリルド加工にはどんな意味と効果があるのだろうか。
ブレーキローターはホイールと同じ回転数で回転していて、それをブレーキパッドで押さえつけることでクルマは減速していく。よくある表現では、パッドとローターの摩擦によって運動エネルギーを熱エネルギーに変換していると言われる。摩擦でスピードを落とす以上、当然ながら熱が発生する。その熱はときにローターを600度や700度にもする。
そんな過酷な条件にさらされるブレーキローターだが、一般的なクルマではプレーンローターと呼ばれる、溝や穴のないタイプが使われることが多い。一方でスポーツカーやサーキット対応品では、穴や溝を設けたローターが採用される。その主な目的はガス抜きとパッド表面のリフレッシュだ。
◆ブレーキローターのガス抜きがフェード対策になる理由
まずガス抜きとは何か。ブレーキパッドは繊維や樹脂、金属成分などを高温高圧で固めて作られている。それを鉄製のローターに押し当てて摩擦させることで制動力を発生させる。
この繊維や樹脂が高温になると煙のようなガスが発生することがある。このガスが問題になる。パッド表面から多量のガスが発生すると、パッドとローターの間にガスの膜ができる。ドライアイスを平面の机に置くと浮いたようにすっと動くのと近いイメージで、パッドがローターに密着しにくくなりブレーキの効きが大きく低下する。
この状態では、強くブレーキを踏んでも思ったように減速しないことがある。こうした高温による制動力低下はフェードと呼ばれ、ガスの発生もその一因となる。
フェードは樹脂などの成分が多いパッドほど起きやすい傾向がある。そこで高温になるレース用やスポーツ走行向けパッドでは、鉄などの金属成分を増やしている。金属成分が多くなることでガスは発生しにくくなり、より高温でもブレーキが効きやすくなる。しかし、それでもガスは多かれ少なかれ発生する。そこで生まれたのが、ドリルドローターやスリットローターだ。穴や溝でガスを逃がすことで、フェードを起こしにくくする狙いがある。
◆スリットローターはパッドを削って効きを安定させる
スリットローターでは、溝のエッジがブレーキパッドの表面をわずかに削っていく効果もある。カンナで木材を削るようにパッド表面を薄く削ることで、新しい摩擦面が出てくる。それによってブレーキの効きが安定し、わずかに制動力が高まる場合もある。このパッド表面のリフレッシュ効果も、スリットローターの大きな特徴だ。
この効果はスリットの本数が多いほど高まりやすく、それを狙って多数のスリットを入れたローターもある。ただし、パッドを削るということは摩耗も早くなるということだ。そのため、効きと寿命のバランスを考えて、あえて数本のスリットにとどめているローターもある。
比較すると、プレーンローターは摩耗やノイズ面で扱いやすく、街乗りでは十分な性能を発揮しやすい。一方でスリットローターは、ペダルを踏み込んだときの食いつき感や高温時の安定性を狙いやすい。ただしパッド摩耗やブレーキ鳴きが増える場合があるため、用途に合わせた選択が重要になる。
◆ドリルドローターは放熱性と見た目に優れるがクラックに注意
ドリルドローターは貫通穴を設けたブレーキローターだ。こちらもガス抜き効果があり、パッド表面をリフレッシュする効果も期待できる。さらに穴によって放熱性や軽量化の面でメリットが出る場合もある。ドリルドローターならではの繊細なペダルタッチや、スポーツカーらしい見た目の良さも特徴だ。
ただし、ドリルドローターにはデメリットもある。穴の周辺に熱や応力が集中しやすく、使い方によってはクラックが発生しやすいという指摘がある。そのため国内のアフターパーツでは、スリット入りローターが主流になっているケースも多い。
対策としては、サーキット走行のように高温負荷が大きい使い方をする場合、ローターの状態を定期的に点検することが重要だ。細かなヒビや段付き摩耗、異音が出ていないかを確認し、違和感があれば早めに交換する。街乗り中心であれば見た目やフィーリングを重視して選ぶのも良いが、過度な性能だけを求めるより車両の使い方に合う製品を選びたい。
◆街乗りとスポーツ走行で選ぶべきブレーキローターは変わる
スリット入りローターは、パッドの摩耗が体感的にスリットなしのローターに比べて約1.5倍ほど早くなる場合がある。その一方で、スリットローターならではのペダルタッチがある。ペダルを踏み込んでいったときに効きが立ち上がりやすく、バイト感が増えると表現されることもある。
選び方の目安を整理すると、街乗り中心で静粛性やコストを重視するならプレーンローターが扱いやすい。峠道やワインディングを気持ちよく走りたいならスリットローターが候補になる。見た目のスポーティさや軽快なタッチを重視するならドリルドローターも選択肢に入る。ただし、サーキット走行を前提にするなら耐熱性やクラック対策を含め、パッドとの相性まで考えて選ぶ必要がある。
もう少しだけブレーキの効きをアップさせたいが、パッドの種類を変えると特性が大きく変わってしまう。そんなときには、パッドはそのままでスリット入りローターに交換するというのも有効な手のひとつだ。ブレーキローターのスリットやドリルド加工は見た目の演出だけではなく、制動力の安定やペダルタッチにも関わる重要な要素なのである。
《text:加茂新》