この5月、日本に上陸するシトロエン『C5エアクロス』に、ひと足早くパリ近郊で試乗する幸運に恵まれた。
ペイ・ドゥ・シュヴルーズと呼ばれるこの地域は、パリ周辺にしては急な谷あり・登り坂ありで、110~130km/h制限の高速道路もあれば、30~50km/hに落とすべしの集落もあって、近郊路では再加速してまた80km/hに戻す必要がある。もちろん一時停止や横断歩道など、純粋なストップ&ゴーも少なからず。つまり日本的な感覚では、MHEVとはいえ全長が4.6m超もある、3気筒1.2リットルターボの小排気量車には、いくらなんでもキツいんじゃないの? そんな疑問が頭をもたげていたのだ。
◆フラッグシップとして“成長”した新型『C5エアクロス』
そもそも、C5エアクロスは同名のSUVとして2世代目。だが今世代は、『C5 X』にとって代わるシトロエンのフラッグシップモデルでもある。製造はレンヌ・ラ・ジャネといって、シトロエンが1961年から稼働させた歴史ある生産拠点で、竣工式にド・ゴール大統領も出席した、そんな由緒ある工場で行われる。
ここは『アミ6』に始まって『GS』や『BX』、『C5 II』や『C6』といったハイドロ最終世代も手がけた。数年前からSTLAミディアムプラットフォームのC5エアクロスとプジョー『5008』を生産するため、バッテリーの組立ラインと溶接工房、またバンパーなど大型の樹脂パーツを射出成形するラインを、約160万ユーロ(約300億円)の投資によって新たに備えたという。
まずは静的観察。新型C5エアクロスの外寸は全長4655×全幅1905×全高1710mm。先代が同4500×1850×1710mmだったので、全長が15cm少々、幅は5cmほど拡大し、ホイールベースも旧2730mmから新2790mmなので6cmも伸びた。その分、後席の足元と荷室は広がった。容量のみならず、上方まで立方体に近く積載しやすいスペースが確保されている。
また先行して導入された新型『C3』でも用いられた、アクセントのクリップにゴールドを採用するなど、控えめな加飾も少しだけゴージャス。フラッグシップであることを静かに主張する。
C3もそうだが、新世代シトロエンのエクステリア・デザインは、空力と同時に彫像性を突き詰めている分、写真の固定視点から眺めるより、アングルや距離を変えて実車を観察する方が、色々と印象が変わるタイプだ。側面とリアの空力を整えるディフレクター形状のリアコンビランプは、欧州でも型式認証に苦労したポイントだが、燃費向上つまり消費エネルギーや環境負荷の削減に資するディティールゆえ、認証機関が協力があって実現したと、チーフデザイナーのピエール・ルクレルクは強調していた。またフロントボンネットの左右が盛り上がっていて、車両感覚も思った以上に掴みやすい。いわば奇をてらうどころか、理由のあるデザインだ。
◆1.2リットルMHEVでも静寂にしてダイナミックな走り
そして走らせてみた第一印象だが、前もってイメージしていたものを心地よく裏切ってくれた。1.2リットルでMEHVとはいえ全長4.6m以上もあるSUVが、しっとりと余裕さえ感じさせる動的質感を実現していることに、驚愕させられる。最初のひと転がり、ふた転がりだけ電気モーターで進むのではなく、ゆっくりアクセルを踏めば30~40km/h辺りまでICEが介入してこない。あくまで右足を踏み込んだ時の下支え、あるいはトップアップとして高速巡航など低負荷時に電気が効くタイプだが、ICEとの駆動制御の境目はごくシームレス。とどのつまり、限りなくストロング・ハイブリッドに近いMEHVなのだ。
先代から受け継がれたアドバンストコンフォートシート、そしてPHC(プログレッシブ・ハイドロ―リック・クッション)ことカヤバ欧州サウスから供給されるダンパー・イン・ダンパーは、相変わらずいい仕事をしている。そもそも可変減衰式サスペンションでもないのに伸び縮みとも十分なストローク量が感じられるのに加え、ステアリングやペダル操作による荷重変化や変位に対し、ピタリと姿勢がキマる、その忠実さ・速さが心地いい。初代C5エアクロスほど柔らかでないにせよ、シトロエンの乗り心地が「マジックカーペット・ライド」と評されるのは、ただ上下動が柔らかいからではなく、柔らかいけれども意のままに操りやすいことに重きがある。
システム出力は230Nm・145ps、うちICEは170Nmと136psと控えめだが、C5エアクロスでは初となるE6-DCSこと 6速ダブルクラッチ・トランスミッションの滑らかさとダイレクトさ、あるいは路面ノイズを見事に遮断するボディやボディ剛性も貢献している。機敏だけど静寂、そんなほぼ矛盾した乗り心地に、乗員は俗することになる。それは、小排気量でバッテリー容量の小さいMHEVの利点でもある。1630kgと決して軽くはないが不必要に重くない車重のメリットは、鷹揚だがその気になれば自然と活発な、ビッグ・シトロエン伝統のハンドリングにも表れる。ストロング・ハイブリッドとの差が確かに埋まってきていて小排気量である分、WLTC値で20km/リットル近い燃費そして税制面でも、このバランス感は心地よいだろうと思える。
もうひとつ、静寂にしてダイナミックな走りを少なからず印象づけるのはインテリアだ。一見して直線的なようで触感は柔らかく、13インチの縦型タッチスクリーン採用も手伝い、水平方向の広がり感は大胆ですらある。ヘッドアップディスプレイやメーターパネル内の輝度コントラストも、明らかに増した。加えてフラッグシップを名のる分、リアのアドバンストコンフォートシートも素晴らしく快適で、前後スライドこそ無いが4・2・4分割の後席は5名乗車時に約651リットル、最大1688リットルにまで拡張可能な、ヴァーサタイル(多用途)さを誇る。
◆サイズを拡大しただけの2世代目ではない
今回の試乗会では、2025年よりシトロエンCEOに就任したグザヴィエ・シャルドン氏にも話を聞くことができた。氏は2011年に一度、シトロエンを辞してVWフランスの代表を務めた後、再びシトロエンに戻って来た。三菱『アウトランダー』のリバッジ・モデルである『C-クロッサー』やまだ「シトロエンDS」だった頃のハッチバックである『DS 3』をも、マーケティング畑からローンチを担当した張本人でもある。
「戻ってきたらステランティス・グループになっていましたけど、周囲の環境はともかくシトロエンの本流は驚くほど変わっていません。だからこそ、ブランドとして再ブーストが要る。具体的には顧客の声により耳を傾け、新しい価値を提供すること。なぜならシトロエンは“人々の車”ではなく“人々に近い車”。“人々に寄り添う車”であることが大事ということです。だから伝統的なセダンやサルーンでなく、C5エアクロスというSUVが新しいフラッグシップを担うことはその一環。人々が求めているのはSUVで、シトロエンらしい車であることなのです」
確かに、新しいC5エアクロスはサイズを拡大しただけの2世代目ではない。従来的なハイエンド車に求められるステイタス性よりも、SUVとしてあるべき軽快さとスマートさを両立させたデザイン、そしてビッグ・シトロエンならではの乗り心地と奥深いハンドリングをも、併せもつ。それでいて後席の居心地まで含め、日常的な使い易さを高い次元で実現している。今どきのファミリーカーもしくは大人のパーソナルな車が、フランス流の良識でどうあるべきか、大真面目に芯で捉えた1台に仕上がっているのだ。
限りなくDセグに近いアウトプットを思えば円安の今でも、500万円台半ば~の車両価格(メーカー希望小売価格は535万円から)は妥当以上と思える。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★
南陽一浩|モータージャーナリスト
1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。
《text:南陽一浩》