サスペンションのダンパー選びで迷わないために単筒式と複筒式の違いを整理する。結論から言うと構造の違いが乗り味や熱、取り付け条件に影響するため、用途に合わせた選択が重要だ。ここでは特徴と注意点、選び方を具体例とともに解説する。
◆単筒式の構造と特徴
単筒式はその名の通り1本のシリンダーを基本とした構造で、内部にオイルが入り、穴の空いたピストンバルブが上下することで減衰力を発生させる。
ピストンバルブの穴にはシムと呼ばれる薄い金属板が重ねられシムの厚みや枚数で減衰力の立ち上がり方が変わる。厚いシムを1枚入れる場合と、薄いシムを複数枚重ねる場合では特性が異なるため、シムの組み合わせで狙いの減衰力に合わせ込む。こうした調整は仕様変更と呼ばれることが多い。
オイル室の先には動くフリーピストンがあり、その奥に窒素ガスが充填される。サスペンションが沈むとシャフトがオイル室に入りオイルの体積が押し込まれるため、その分だけガス室を圧縮して体積を吸収する仕組みだ。ここで重要なのが、ガス圧で高いほど反発力が増えて乗り味が硬く感じやすい一方、低すぎると急激なストローク時にオイル内で気泡が発生しやすい。いわゆる泡立ち(キャビテーション)が起きると減衰力が不安定になり本来の性能を出しにくくなる。
◆複筒式の構造と特徴
複筒式は単筒式のシリンダーの外側にもう1本の筒(ケース)を持つイメージだ。内側のシリンダーにはオイルとピストンバルブがあり、ストロークしてシャフトが入ってきた体積分はシリンダー下部のベースバルブからオイルが外側へ移動する。シリンダーとケースの間の空間には移動してきたオイルと窒素ガスが存在し、ここではガスとオイルが基本的に仕切られていない。
急激なストロークではオイルが泡立ちやすいため一定の加圧が必要になるが、複筒式はベースバルブの働きで圧力を与えられる。そのためガス圧自体は低めでも成立しやすい。また内側にシリンダーを収める構造上シリンダー径が小さくなりやすくシャフトも細くなりがちで、ピストン周りやシール面積も小さくなる傾向がある。結果としてフリクションロスが抑えやすくしなやかな乗り味に味付けしやすいという見方がある。
生産面でも複筒式は、単筒式のようにシリンダー内のエア抜きを丁寧に行いながら組む工程が相対的に軽く、量産に向く。そのため純正ダンパーの多くが複筒式というのは大きな特徴だ。
一方デメリットは、オイルとガスが同じ空間にあるためオイルが適切に位置していないと性能を発揮しにくい点にある。一般論として倒立構造や大きく倒した取り付けには不向きとされる。またシリンダーが内側にある分放熱性は単筒式より不利になりやすい。
◆メリットデメリット比較と選び方
かつては複筒式=純正やストリート向けのリーズナブルな車高調、単筒式=スポーツ走行向けで高価という紹介が定番だった。実際にそうした商品が多いのは事実だが近年はこの図式だけでは判断できない。レース用ダンパーでも複筒式が採用される例があり微細な減衰力の作り込みや調整に適するという考え方もある。価格面でも1本100万円近い複筒式が珍しくない。
ここでのポイントは構造だけで優劣を決めないことだ。用途ごとに比較軸を揃えると選びやすい。
・熱ダレ耐性を重視(連続周回、ハードユース)→放熱性の有利さを取りやすい単筒式が候補
・しなやかさや初期の動きを重視(荒れた路面、街乗りの快適性)→フリクションの作り込みが効く複筒式も有力
・取り付け姿勢の自由度が必要(倒立、特殊レイアウト)→構造条件を先に確認
・泡立ち対策を重視(連続入力、温度上昇)→適正ガス圧、オイル管理、設計思想(リザーバー等)をチェック
デメリットへの対策も押さえておきたい。単筒式はガス圧の影響で硬さを感じる場合があるため、街乗り主体なら、減衰の設定レンジやスプリングとの組み合わせで乗り味を作る。複筒式は放熱や取り付け姿勢の制約が出やすいので、購入前に使用環境(サーキット頻度、連続走行時間、取り付け向き)を前提条件として整理すると失敗しにくい。
◆メーカー例と最新トレンド
構造で単純に選べない今メーカーごとの思想とシリーズの狙いを見るのが近道になる。国内メーカーではテインが単筒式と複筒式の両方をラインアップしている。海外メーカーではKWがストリート用に複筒式、サーキット向けに単筒式を用意するなど、用途で構造を使い分ける例がある。HKS、BLITZ、APEXi、ENDLESS、ARAGOSTAなどは単筒式を採用する製品を展開している。
最終的には、使う場所と求める乗り味を先に決め、比較軸を揃えてシリーズを選ぶことが、単筒式・複筒式の違いを活かすコツだ。
《text:加茂新》