世界で初めてディーゼル乗用車を発売したのは、メルセデスベンツである。1936年というから第2次世界大戦前の話である。
ディーゼルエンジンが爆発的に進化して音も静かになり、排気ガスもクリーンになったのは、コモンレールという技術が導入されたからであるが、これは日本のデンソーが最初に作り、それをトラックなどに使用して実用化した。そして、このコモンレールターボディーゼルを乗用車向きに量産したのはボッシュで、それを初めて使ったのは予想外にもアルファロメオであった。
しかし、1936年に初のディーゼル乗用車を発売し、以後ディーゼル乗用車を作り続けているメルセデスは、やはりディーゼルの育ての親といって過言ではないと思う。そして今、直6のディーゼルはその圧倒的静粛性とスムーズさで群を抜いているし、今回試乗した「E220d」用の4気筒ユニットにしても、その静粛性、スムーズネス、そして高燃費では他を圧しているという印象を持ったのが、今回試乗した『E220d 4MATIC オールテレイン』であった。
残念ながらVWによるディーゼルゲート以降、特にヨーロッパでのディーゼル需要は激減しており、各メーカーもディーゼルの開発はほぼストップした状況にあると言ってよい。試乗車が搭載するOM654Mと呼ばれるエンジンは、母体となったOM654が2016年に登場したもの。そして今回もOM654Mはその改良版として2021年に登場し、これがE220d 4MATIC オールテレインに搭載されたのは昨年のことである。
◆MHEVを得てさらに静かになったディーゼル
大きな変化としては48VのMHEVとなったことや、可変ジオメトリーの水冷式ターボを搭載したこと。それに新たなクランクシャフトの採用で、ストロークが2mm延長された結果、排気量が42ccほど拡大して、1992ccとなったことなどである。
このエンジンに関して結論から言うと、とにかく静粛性が高くスムーズ、少なくとも街乗りだろうが高速だろうが、エンジンを意識することはほぼない。そして燃費の良さも特筆もので、およそ600km走った燃費は16.2km/リットルというもので、燃料タンク容量を考慮すれば1000kmは無給油で走れる計算になる。
事実途中で気が付いた時は、472.4km走った段階で可能走行距離が877kmと出ていたから、実に1300km以上走る計算になる。おかげで返却時に600km以上走っていたにもかかわらず、燃料計はまだ残り半分のところを指していたほどである。
MHEVとなって発進時のスムーズさも顕著になったし、長い信号待ちなどで仮にエンジンがかかってもほとんど気が付かないレベルまで、振動や音が抑え込まれている。昔からメルセデスは、ディーゼルエンジンのコンパートメントをカプセル化して、音を外部に漏らさない対策を施していたが、そうした技術の積み重ねでメルセデスのディーゼルは、ガソリン車と同等といっても過言ではないほど静かになっている。
◆Eクラスを選ぶなら「オールテレイン」が一番
オールテレインの良いところはその乗り心地であろう。残念なことに同じ骨格を持つ『Eクラス』は、正直褒められた乗り心地を持つモデルではなかった。しかし、車高を30mmほど高くして、エアマチックサスペンションが奢られたオールテレインの乗り心地は、既存のEクラスとは全くの別物である。
今回の試乗ではその多くのパートを高速道路での移動に使ったのだが、一般道を走ってみても乗り味の印象は変わらないし、元々素晴らしいステアフィールを持っているクルマだけに、とにかく抜群の安心感と快適さを誇った。まさにこれがメルセデスの神髄といっても過言ではない。
外観は、グリルの横バーが2本に増えていることが主たる違い。ホイールアーチをクロスカントリー車風に黒い樹脂で縁取りをしているため、明るい色の場合それが目立つだろうが、今回試乗したのは外装がブラックなので、全く目立たない。どちらが良いかは好みにもよるが、黒だと車高が上がっているにもかかわらず、パッと見は普通のワゴン車に見える。
インテリアは基本的に他のEクラスと共通で、ダッシュボード全体をディスプレイとして、メータークラスターだけが独立したディスプレイとなるメルセデス独特のデザイン。ある意味どこでもディスプレイなわけで、こうしたトレンドは今後ますます増えていきそうである。
いずれにしてもEクラスをチョイスするなら、性能的にも快適性的にもこれが一番である。ただしお値段も車両本体価格1103万円、オプションを含めた試乗車の価格は1322万8000円とかなり高額になる。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来45年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。
《text:中村 孝仁》