「マイバッハ」と言う名前は、元々メルセデスの技師として働いたエンジニアだが、その後メルセデスとは袂を分かち、自社ブランド、マイバッハを立ち上げた。時が過ぎ、1950年代に再びメルセデスがマイバッハの株式を買い取り、実質的に傘下に収め、今に至る。
そして、メルセデスはマイバッハに敬意を表してか、今は同社の最高級ブランドとして位置付けている。そんなマイバッハに、同ブランド初のBEV SUVが誕生した。それが『メルセデスマイバッハ EQS 680 SUV』である。『EQS』はすでにメルセデスブランドでもリリースされているが、単にEQSと呼ぶとセダン系を指し、後ろにSUVと付けなくてはならないところが少々ややこしい。
◆車重3トン、価格は2790万円の“規格外”モデル
そんなEQS SUVレンジの最高峰として誕生したモデルが、マイバッハ EQS 680 SUVであり、さすがにメルセデスと名付けられたEQS SUVとは、一段レベルの違う高級感を醸し出していることに加え、その性能もやはり僅かながらこちらが上。そんなわけだから、車名に入る数値もメルセデスの場合は最高が「580」であるのに対し、こちらは「680」となる。このためパフォーマンスは当然のこととして、航続距離も680の方が長くなる。
車重は何と3050kg!3トンを超える。それも僅か50kgほど3トンを超えるために、本来支払うべき自動車重量税は相当に高いはずなのだが、車両取得時並びに初めの車検では、この重量税は免除される。本来、重いクルマが道路を傷めるとの論理から、重いクルマに高い税金をかけるはずなのに、今のところ電気自動車は免除である。これ、納得がいかない。
まあ、車両価格が2790万円(試乗車はオプションが追加されて2913万6000円である)もするから、この手を買おうという高額所得者の場合、たとえ重量税がかかったとしても痛くもかゆくもないのかもしれないが…。
◆クルマの移動空間としては「贅沢ぅ~!」
それにしても、「贅沢の極み」と言って過言ではないレベルの装備である。試乗車に付いたオプションは、「ファーストクラスパッケージ」と呼ばれるもので、このオプションを装備すると、後席は4人掛けのシートレイアウトになる他、センターコンソール部分にクーラーボックスが装備される。さらに格納式のテーブルも付くなど、超豪華。流石に飛行機のファーストクラスのようなスペースこそないものの、クルマの移動空間としては、贅沢ぅ~!である。
同じ時に試乗した『AMG GT』では、かなり気分が滅入った。と言うのもあまりの速さや、その高性能が醸し出すパフォーマンスを使わなくてはならないという、意味のない使命感に苛まれたものだ。しかしこのクルマにそれはない。こちらは同じような価格で、性能的にもそう大きな差がない(0-100km/h加速4.4秒)パフォーマンスを持っているが、快適に走らせることが第一義的なクルマだから、そのパフォーマンスを使わなくてはならないという使命感がないからかもしれない。
それにしてもBEVだから、元々十分に静かなクルマであることに加え、とことん外界からの音を遮断した室内は、全く持って見事なほどの静寂感に包まれる。高速に乗って、一瞬フル加速を試してみたが、その加速感はやはりAMG GTと変わらぬ、とてつもないものであった。
◆やはり運転席に座るクルマではない
運転は至って楽である。試乗コースもほとんど一級国道と変わらぬ道幅のある所ばかりだから、2035mmもある車幅を気にするところがなかったからかもしれない。それだけでなく、リアタイヤがステアする4WSを装備しているので、全長が5135mmもあるのに、最小回転半径はたったの5.1mしかない。確かに狭いところで向きを変える時などには重宝するかもしれないが、その車体を両側にクルマが並んだ駐車場の四角い枠に収めるとなると、2035mmと言う車幅が“そうは問屋が卸さない”だろう。
写真を撮るためにクルマをしかるべきところに止めた。こういうクルマは本来後席にふんぞり返るのが一番。そんなわけで、動かすことはできなかったが、オットマンを持ち上げて、俄ショーファードリブンカーのオーナー気分を味わった。まさしく「贅沢ぅ~な気分」を味わえる。
センターコンソールにはクーラーボックスも付いて、走行中に冷たいシャンパンなど…と来ればなおさらである。このクーラーボックス、リアのラゲッジスペースに大きく張り出してしまうので、ゴルフなどに行く際は外していかないと、キャディバックは載りそうになかった(取り外し可能である)。
極めて速いし、エアマチックが装備される乗り心地はこれも極上だが、やはり運転席に座るクルマではない。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員・自動車技術会会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来46年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。
《text:中村 孝仁》