愛車の音響システムを進化させる趣味の世界では、とかく専門用語が使われたりなじみのない仕組みが用いられたりする。ゆえに、興味を持って扉を叩く入門者を困惑させがちだ。当連載は、その払拭を目指して展開している。現在は、「DSP」に関連した事項を解説している。
◆「DSP」の「クロスオーバー」を使えば、スピーカーの性能を一層引き出せる!
DSPとは「デジタル・シグナル・プロセッサー」の略称で、これをシステムに組み込むと緻密なサウンド制御を行える。車内には音響的な不利要因がいくつかあるが、これを使えばそれらへの対処が可能となるのだ。
ということで前回からは、どのような不利要因にどんな機能が効くのかの説明を開始し、まずは「クロスオーバー」という機能のあらましとこれが使われる理由とを解説した。それに引き続いて今回は、その運用法を説明していく。
さて、クロスオーバーとは「再生範囲の割り振り」を決める機能だ。DSPを使う場合にはその中で最初に「クロスおー−バー」にて音楽信号の帯域分割が行われ、そうすることで分割された個々の信号を個別に制御できるようになる。またスピーカーの取り付け条件に即した最適な「信号の割り振り方」を決められるので、スピーカーの性能を十二分に引き出せる。
◆クロスオーバーでは最初に、再生範囲の下限(または上限)を決定!
なお、クロスオーバーの設定は結構難しい。設定すべき項目がさまざま存在しているからだ。
具体的に説明していこう。クロスオーバーを設定する場合にはまず、「カットオフ周波数」が決定される。例えばツイーターとミッドウーファー間での「再生範囲の割り振り」を決める場合、ツイーターとミッドウーファーのそれぞれにどのあたりの音域までを担当させるかが決められる。その担当範囲の下限(ミッドウーファーの場合は上限)がカットオフ周波数だ。ちなみに、ツイーターのそれとミッドウーファーのそれが同一周波数である場合には、その数値のことは「クロスポイント」とも称される。
ところで再生範囲の下限(もしくは上限)を設定しても、そこで音楽信号がばっさりと切り取られるわけではない。例えばツイーターの再生範囲の下限を5kHzに設定しても、5kHzから下の音は音程が下がるほどに音量が小さくなってはいくものの、ある程度はツイーターからも聴こえてくる。その「減衰率」もクロスオーバーにて決定される。で、その減衰率のことは「スロープ」と称されている。
◆「スロープ」、「音量バランス」、「位相」を整えれば、設定が完了!
なおスロープは「−〇〇dB/oct(マイナス○○ディービーオクト)という単位にて表される。「oct」とは「オクターブ」で「dB」とは「音量」を表す単位だ。つまり、1オクターブ音程が下がる(上がる)ごとにどれだけ音量が小さくなるかをこれにて決める。
ただし、〇〇に入る数字は任意に設定できない。6の倍数の中から選択されることとなる。
そして、各スピーカーの「音量バランス」もクロスオーバーにて決められる。ツイーターがリスナーに近いところに設置されていればツイーターの音量が下げられるというように設定される。
さらには「位相」も設定される。カットオフ周波数付近の音はツイーターからもミッドウーファーからも聴こえてくるので、それぞれの「音波のタイミング(位相)」を揃える必要がある。それが一致しないとサウンドの一体感が生まれない。
今回は以上だ。次回は「イコライザー」について説明していく。乞うご期待。
《text:太田祥三》