これまでおよそ30年近く世界中のオフロードコースを走ってきた。ジープやレンジローバーブランドと仲良くしてきたからだろう。ジープの聖地ルビコントレイルやレンジローバーをテスト&評価するイースナーやソリハルのオフロードコース等を幾度となく走った。そもそも80年代に『4×4マガジン』という四駆専門誌でバイトしてきたことがある。要するに根っからのオフローダー好きなのだ。
そんな嗜好なだけに今回、三菱の『アウトランダーPHEV』と『三菱トライトン』に雪上で試乗できるのを楽しみにしていた。どちらも好みである。ピックアップトラックは学生時代から乗っていたし、アウトランダーPHEVはマイナーチェンジ前のモデルを一年間ロングタームテストとして日々の足に使っていた。
さらにいえば、試乗を行うコースも今回の見所のひとつ。北海道の新千歳空港に程近いそのコースはこれまで何度も走ってきたことがあるからだ。元来ロックセクションやモーグル、30度以上の勾配のヒルクライムやダウンヒルを有するコースが好みだが、ここの雪上をダートコースのように走るのは楽しい。かつてはジープ『ラングラー』で雪を蹴り散らしながら走ったことがある。
そんな背景で試乗に挑んだわけだが、その走りをレポートする前に三菱の「S-AWC」について少し話をしたいと思う。
◆パジェロから受け継いだ「S-AWC」という概念
S-AWC(スーパーオールホイールコントロール)は彼ら=三菱自動車がクルマを安定させて走らせるための概念のようなものだ。かつて『パジェロ』を中心に日本のRV界を席巻した実績から生まれた。基本形としては「前後の車輪にトルク配分すること」、「左右のタイヤでトルク移動させること」、「4つのタイヤのブレーキを統合制御すること」である。そのため、横滑り防止やヨーレイトセンサー、ABSやASC等々を用いて実践する。それにより低ミュー路だけでなく、直進安定性、コーナリングの操作性など、基本的な走りの上での優位性をも高めようという考えだ。
ではアウトランダーPHEVだが、このクルマはその概念をもとに2つのモーターがそれぞれ前後のタイヤを管理する方式が取られた。しかも最大トルクをフロント85kW、リア100kWとリアモーターの出力を高めることで理想的なトルク配分とした。つまり、操舵に対する追従性の良い走りを目指したのである。フロント優先だとコーナー出口でアンダーステアが強くなるが、それを解消したカタチだ。
それを踏まえ雪上コースをテストドライブしたのだが、試したのは主に3つのモードだった。“ノーマル”と“スノー”、それと“グラベル”である。“グラベル”は未舗装路の意味で雨などの路面を推奨するモード。かつてラリーで戦っていたブランドだけに、“グラベル”や“ターマック”というワードを使っている。言うなれば、三菱だからしっくりくるネーミングだ。
◆クルマを完璧に制御できるからこそ楽しめる“余白”
走った印象はノーマルでもそれなりに走れるということ。各センサーが4つのタイヤのトルク配分を精緻にコントロールし、なんとかクルマを進ませようとする。ただこの場合路面を引っ掻き始めたら注意信号で、ミューに対する限界があるのは確かだ。
その点スノーモードの安定感は強くドライバーは路面を意識することなく、ステアリングとアクセル操作でクルマをコントロールできる。自動でスタートは2速発進になり、アクセルは絞られるので意識はステアリングに注力できると言っていいだろう。クルマに不慣れた方も安心のモードだ。
それじゃグラベルはというと、スノーの制御を少し和らげた感じ。具体的にはタイヤの空転を感知して制御するシステムを若干遅らせている。なので、腕に自信があれば雪上コースでリアを滑らせながらコーナリングできる。少しだけクリッピングポイントを手前に持っていき、鼻先をインに差し込みながらアクセルを踏んでいくとリアが流れ出すから楽しい。「SUVでこんなに楽しく走っていいの?」というのが正直な感想だ。
そんなことができるのだから、グラベルはある意味「裏技的存在」と言っていいかもしれない。スノーモードよりも確実に速度域が上がるので、こうしたシーンでは走りが楽しくなる。きっと開発陣は我々メディアに「そんな走りもできるよ」というメッセージを伝えたかったのだろう。クルマを完璧に制御できるからこそ、こういった余白を作れるのかもしれない。
◆アウトランダーPHEVの走りに圧倒された
というのがアウトランダーPHEVの雪上での走り。センターデフを有するトライトンはまた違う走りを見せたが、そちらはまた別の機会があればお伝えしよう。本来機械式四駆で育った身だけにこちらの動きは親しみがある。ただ今回はアウトランダーPHEVの走りに圧倒された感じだ。三菱の技術力の高さを身をもって体感できる印象的な雪上試乗であった。
九島辰也|モータージャーナリスト
外資系広告会社から転身、自動車雑誌業界へ。「Car EX(世界文化社 刊)」副編集長、「アメリカンSUV(エイ出版社 刊)」編集長などを経験しフリーランスへ。その後メンズ誌「LEON(主婦と生活社 刊)」副編集長なども経験する。現在はモータージャーナリスト活動を中心に、ファッション、旅、サーフィンといった分野のコラムなどを執筆。また、クリエイティブプロデューサーとしても様々な商品にも関わっている。趣味はサーフィンとゴルフの“サーフ&ターフ”。東京・自由が丘出身。
《text:九島辰也》