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【トヨタ クラウンセダンHEV 新型試乗】「セダンの王道」はいかに進化したか…中村孝仁

自動車試乗記

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◆「セダンの王道」はいかに進化したか

かつてはセダンの王道を行っていたトヨタ『クラウン』。今はそのバリエーションが「クロスオーバー」や「スポーツ」など多岐にわたる展開をする。とはいえ、かつて「いつかはクラウン」というキャッチフレーズに夢を見た世代としては、依然としてセダンが王道であることに変わりはない。

クラウンというブランドは、日本の自動車の中では最も長く連綿と作り続けられているモデル名のひとつだ。現行モデルは16代目になるそうで、1955年以来70年近くの歴史を持つモデルなのである。そんな16代目のセダンに乗ってみた。

昔からクラウンを知るものとして、最初の感想はやはり「ずいぶんと大きくなったものだ」ということ。というのも全長はついに5mの壁をぶち破り、5ナンバー枠の呪縛から逃れた後も1800mmというぎりぎりの拡大幅にとどめて、帰納ユーザーに手厚いところを見せていたのが、ついに全幅も一気に90mmも拡大した1890mmに膨れ上がったからである。

これまでは1800mmにとどめていた車幅によって随分とスリムで細長く見えたものだが、今回は堂々とした佇まいが強調されている。考えてみれば今どきのCセグメントのモデルでも輸入車は1800mmを軽く超える。たとえばプジョー『308』の全幅は1850mmだし、ルノー『メガーヌ』も1815mmだ。だから、これまではDセグメントのはずのクラウンが実に細身に見えたのである。

◆乗員全員が良さを味わえるクルマに

さて、今回はその動力源が燃料電池(FCEV)もしくはハイブリッド(HEV)の2択。HEVに組み合わせるガソリンエンジンは2.5リットル直4のみとなった。これも時代の流れなのだろうか。そして今回お借りしたのは後者、即ちガソリンとモーターを組み合わせたHEVモデルである。

そしてセダンにはもう一つ大きな特徴がある。それは他のクロスオーバーやスポーツと違ってFRの駆動方式を採用していることである。今どきFWDでも十分にハンドリングを楽しむことは可能だが、操舵輪と駆動輪が分けられることによる運動性能は、それが同じものと比べるとやはりそのフィーリングが違う。如何にも後席こそこのクルマの特等席的考えが頭をよぎるし、現に開発陣も後席の快適性をかなり重視したようだが、それでもドライバーズシートがそれに勝るとも劣らない場所であることが認識できる。

それが証拠というわけではないが、今回のモデルには5つのドライブモードが設定されている。通常はエコ、あるいはノーマルモードが多くのドライバーのデフォルトモードだと思うが、例えば運転を楽しみたい時にはスポーツモードが存在し、ステアリングの操舵感覚を変え、さらにシャシーをAVSという電子制御サスペンションによって運動性能向上方向に変えてくれる。

そしてもう一つが後席重視の「リアコンフォートモード」である。こんなモードの名前は初めて聞いた。これをチョイスすると前述のAVSが今度はコンフォート方向に働きを変えて後席の乗り心地を向上させるサスペンションのセッティングにしてくれるというのである。残念ながら“ボッチ・ドライブ”なので、後席を楽しむ機会はなかったが、つまりはドライバーとパッセンジャーがともにその良さを味わえるクルマにしているということである。

◆乗り心地はアウディA8に似ている

乗り出してすぐに感じたのは、ノーマルモードでもとてもしなやかな乗り味を持っていることだ。正直に告白すると、少し柔らかすぎじゃない?という印象が第1印象だったのである。それを特に感じたのはピッチング方向のクルマの動きである。きちっと制御されているとはいえ、非常にしなやかというか柔らかく動くので、悪く言えば昔のアメリカ車のサスペンションの印象であった。

ところがそれほど柔らかいと感じさせるサスペンションでありながら、ロール剛性はしっかりと保ち、コーナリング中は腰のある乗り心地と運動性能を示す。どこかでこんな印象のモデルがあったなぁ…と思いを巡らして辿り着いたのは、アウディ『A8』であった。新しいクラウンの乗り心地はこのアウディA8に似ている。柔らかでありながら攻め込んでいっても全く破綻を感じさせず、懐の深さを見せてくれる。かつてはダンパーという部品に対してあまりお金をかけなかった日本のクルマだが、今ではすっかり変わり、実にお金をかけている印象が強い。

4速のトランスミッションと2モーター、それに2.5リットルエンジンが縦に並ぶレイアウトは、この駆動系だけを見るとまさに昔風ICEのレイアウト。えっ?たった4速?という反応もあるだろうが、このトランスミッションは疑似的に10速のシフトを可能にしている。かなり効率よく回しているようで、ノーマルで踏み込んでいっても十分に満足のいく加速感が味わえるし、何よりも音があるのがいい。やはり人間は五感で生きる生き物だから、FCEVやBEVの良さは解りつつも、エンジンの音が高まる様は気持ちがいい。

◆FCEVと比べて100万円安い

お値段は試乗車でオプション込み、776万9700円。車両価格は730万円でフロアマット以外は装備しなくても良いかな?のものだから、730万円で安全装備や快適装備のすべてがそろう。しかもFCEVと比べて100万円安い。アーリーアダプターでない私は躊躇なくHEVをチョイスする。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員・自動車技術会会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来46年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。

《text:中村 孝仁》

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