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【VW ゴルフヴァリアント 新型試乗】電気でもSUVでもない「ディーゼルワゴン」。まさにVWここにあり…中村孝仁

自動車試乗記

VW ゴルフヴァリアント TDIスタイル全 31 枚写真をすべて見る

あのディーゼルゲートの一件以来、VWはほぼディーゼルから撤退してしまっている印象が強かった。だが、どっこい。ちゃんと生きている。

『ゴルフ』にディーゼルエンジンが搭載されてデビューしたのは2021年のこと。でもその時設定されたのはハッチバックモデルだけで、ワゴンの『ゴルフヴァリアント』には設定されなかった。それが昨年10月、ヴァリアントにも待望のディーゼルがついに投入された。

◆ディーゼルゲートを経て大幅に進化したevoエンジン

日本でディーゼルが人気を博す背景には、ヨーロッパやアメリカと違ってガソリンに対して軽油が安いことが挙げられる。最近ビックリしたのは一時その価格差が縮まっていたのが、ここに来て再び開き始めたのか、我が家の近くのガソリンスタンドではハイオクとディーゼルの価格差がついに45円と大きな差となった。これだと普段から長距離を走るというドライバーにとってはランニングコストに大きな差となって現れる。独特な力強いトルク感と燃費に良さに加えて安価な軽油とくれば、正直コスパを考えるドライバーにとっては鉄板のチョイスである。

本来VWは先代ゴルフデビューの頃からディーゼル導入を検討していたはずである。というのもマツダがクリーンディーゼル車を上梓したのが2012年。すぐさま大ヒットに繋がり、輸入ブランドもこぞってディーゼルを導入し始めたからだ。

ところが2015年にディーゼルゲート発覚。既に投入を始めていた輸入ブランドはそれをやめることはなかったが、VWはある意味自粛した。だから投入が遅れた。そしてやっと投入されたエンジンはEA288と呼ばれた、誕生から時を経たエンジンだった。それが2021年にハッチバックに搭載されてデビューしたエンジンはEA288evoと呼ばれる改良型で、正直ただevoと付いて基本は変わらないものの、大幅に進化したエンジンだったのである。

今もVWのラインアップには旧型となったEA288を搭載するモデルも存在するが、車種が違っても乗り比べればエンジンの違いはすぐに分かるほどのものである。

◆日本にジャストフィットしたステーションワゴン

今やSUVが全盛となってしまい、ワゴンのマーケットは縮小しているが、それでもファミリー向けのクルマとしては実用性と快適性に優れる。そしてそれを操るドライバーにとってはもう一つ、重心の低さから来る運動性能の良さでSUV以上に操る楽しみもある。現行ヴァリアントがデビューした時にも書いたが、このヴァリアントはサイズ的に日本の交通状況にジャストフィットと言っても過言ではない。

何故なら今どき側面衝突の安全性を重視してか、全幅は拡大の一途をたどりCセグメントでも全長1800mm越えは当たり前。最大のライバルともいえるプジョー『308SW』は1850mmもある。これに対してゴルフヴァリアントは1790mmと1800mm以下に抑え込んでいるのだ。

60mmも車幅が違っても、それによる室内空間の横方向の狭さはほとんどというか、基本的には感じられない。それどころか308SWとの比較では全幅を含みボディサイズはあちらの方が大きいにもかかわらず、例えばラゲッジスペースの容量ではゴルフの方がわずかながら大きい。この辺りがVWのVWらしさと言えよう。

◆まさにVWここにありの1台

さて、件のエンジンである。旧型ともいえるEA288と比較した場合顕著に感じられるのがエンジン回転の軽快感と、軽くスムーズで静粛性が高いことである。車種こそ違えどこの2つのエンジンを乗り比べてみると、その違いがよくわかる。

それにホイールベース2670mmはハッチバックよりも50mm長く、実はヴァリアント史上初めてハッチバックと異なるホイールベースとされている。だから、その分走りは少し落ち着き感があって、悪く言えば鈍重、よく言えば快適である。

どうしても鈍重が嫌という人は320ps、400Nmのパフォーマンスを持つ『ゴルフRヴァリアント』(注:こちらはガソリンエンジン)をチョイスすればよい。

ズバリ言って決して魅力的とか、スタイリッシュなどという言葉が当てはまるクルマではない。個人的には健気なクルマというイメージであるが、これこそ昔からVWが追求してきた自動車としての要素である。電気でもなければSUVでもない。まさにVWここにありの1台である。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来45年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。

《text:中村 孝仁》

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