カーオーディオシステムの音をとことん極めようとするその方法論を、1つ1つ解説してきた当特集。今回はその最終回をお贈りする。取り上げるのは、「ドアにエンクロージャーを組み込む」というやり方だ。この方法の利点と不利点、そして実践方法について解説していく。
◆音にこだわるなら取り付け方にもこだわるべき。そのためには…
さて、カーオーディオシステムのサウンドクオリティを上げようとするのなら、取り付け方にもこだわるべきだ。なのでドアスピーカーについては、土台となるパーツであるインナーバッフルの材質や形状にこだわったり、「デッドニング」のやり方にこだわるべきだと説明してきた。しかし実をいうと、もう1つスペシャルなこだわり方がある。それがこの、「ドアにエンクロージャーを組み込む」という方法論だ。
ところで「デッドニング」とは、ドアのスピーカーとしての完成度を上げようとする作業だ。ホーム用のスピーカーは、スピーカーユニットが箱(エンクロージャー)に取り付けられた状態で完成品となっているが、カースピーカーはスピーカーユニットが裸の状態で売られている。そしてドアが「エンクロージャー」の役目を果たす。
しかしクルマのドアは、「エンクロージャー」としては設計されていないので、音響的なコンディションが良くない。それを改善し「エンクロージャー」に近づけていくために、「デッドニング」は実行される。
◆スピーカーユニットを「エンクロージャー」に組み込めれば、状況のシンプル化が図れる!?
であるならば、最初から「エンクロージャー」を用意してそれをドア内部に組み込んだ方が良いのでは……、と思う向きもあるかもしれない。実を言うと、そうできるのであればそれがベストだ。
しかし、それが実践されるケースは多くない。なぜならば、「難易度が高いから」だ。ドアに取り付けられるスピーカーの口径は17cmクラスである場合が多いが、それを鳴らすための「エンクロージャー」はサイズがある程度大きくなる。なので物理的にドア内部に収めるのが難しい。スペースが足りないからだ。そしてそこを強引に収めようとすれば、ドア内部の大胆な改造が不可欠となる。つまり、現実的ではないのだ。
しかし、実行されることもある。そのハードルを乗り越えられたら、得られる利点が大きいからだ。
まず、状況をシンプル化できる。というのも「デッドニング」ではスピーカーの裏側から放たれる音エネルギー(背圧)の影響を少なくすることが目指されるわけだが、スピーカーユニットを「エンクロージャー」に装着できれば「背圧」をその中に封じ込められる。なので「背圧」が悪さをしでかすことを心配する必要がなくなる。
そして取り付けるスピーカーをコントロール下に置きやすくなる。スピーカーの鳴り方を計算できるようになるのだ。不確定要素が減るからだ。
◆「エンクロージャー」を組み込むことを見越してベース車が選ばれることもある!?
ちなみにいうと、「エンクロージャー」を組み込もうと考えられる場合には、ベース車を選ぶ段階でそのことが考慮されることも少なくない。車格の大きなクルマの方が、それを実行しやすくなるからだ。
とはいえ車格の大きなクルマでも、ハードルの高さはそれほど低くはならない。通常のスタイルで取り付ける場合と比べて、作業の手間は大きくかかる。
ところで、国産ハイエンドカーオーディオブランドの「ビーウィズ」は、トップエンドラインの『コンフィデンス シリーズ』のスピーカーについては、「エンクロージャー」にて取り付けることを推奨してきた。それもあり同社は同シリーズのドアスピーカーのサイズを13cmとしてきた。そのサイズであれば「エンクロージャー」の大きさをある程度小さくできる。それでもインストールには技術と経験が必要となるが、現実性はある程度高まる。
なお口径が小さくなると、低音の再生レンジが狭まる。しかしそれの点については「エンクロージャー」を「バスレフ型」とすることで、そして「サブウーファー」を用いることで対処が可能だ。
音にこだわろうとするときには、「ドアに『エンクロージャー』を組み込む」という手もある。より良い音を得たいと考えるときには、このことも思い出すベシ。
《text:太田祥三》