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【トヨタ クラウン 新型試乗】まるでジキルとハイド!「新クラウンらしさ」は走りにこそあり…西村直人

自動車試乗記

トヨタ クラウン クロスオーバー RS アドバンスト(2.4リットルターボハイブリッド)全 24 枚写真をすべて見る

◆クラウンらしさとは?

2022年7月15日、千葉県千葉市。16代目となった新型『クラウン』のワールドプレミア会場で、豊田章男社長に質問する機会を得た。ずばり「クラウンらしさとは?」である。端的な質問だったので、イベント終了後にトヨタの公式YouTubeチャンネルや、いくつかの媒体に採り上げて頂いた。真摯にお答え頂いた豊田社長には御礼申し上げたい。

豊田社長からは次の要旨で回答頂いた。曰く、過去15代続いたクラウンを同じく15代続いた江戸幕府265年の歴史になぞらえつつ、未踏の領域である16代目クラウンは新たな時代の始まりであると宣言された。さらに、各所で100年に1度といわれる変革期の自動車業界において、16代目クラウンが明治維新を起こすきっかけになる、そういった主旨の発言も頂いている。

「プロトタイプ試乗で感じられた走行性能面でのクラウンらしさは何か」。これが筆者の質問意図だったのだが、お答え内容は高尚だった。質問の仕方が悪かったと反省しつつ、「走行フィールは自身で感じ取って!」というメッセージだったのかもしれない。そう考えながら会場を後にした。

◆全車AWDでハイブリッドという徹底ぶり

すでに各所で報じられているように、新型クラウンは歴代の旦那仕様かつ、法人需要のイメージから180度、方針を転換した。決意表明なのだろう、セダンとSUVのクロスオーバーを意味する「クラウン・クロスオーバー」に車名を変更した。

そしてなにより、新型の外観デザインは多くの人を強く惹き付ける。歴代クラウンのうち、もっともインパクトを受けたのは筆者が生まれる前年、1971年に誕生した4代目クラウンだ。トヨタ自ら紡錘型(スピンドルシェイプ)と呼ぶ前衛的なデザインは、これまでの法人層に留まらず、個人オーナー層へも販売を伸ばす秘策だった。残念ながら時代を先取りし過ぎたのか販売台数には繋がらなかったが、「変革のクラウン」であることに変わりはない。

さておき、16代目クラウンだ。クロスオーバーに始まり、いずれセダンボディ(セダンと命名)、ステーションワゴンボディ(エステートと命名)、ハッチバックボディ(スポーツと命名)を加えた4つのボディ構成になることは、ワールドプレミアの会場で明かされている。歴史に倣い、まさに取りこぼしなしといった印象だ。

パワートレーンには2つのハイブリッドシステムを用意する。ハイブリッド車両の世界生産2030万台を誇るトヨタは世界一の電動化車両販売メーカーだ。

一つ目が、直列4気筒2.5リットルにTHS-II(シリーズ・パラレル式)とE-Four(後輪独立モーター/空冷式で230V)を組み合わせた通常モデル(システム出力234ps)。

二つ目が、直列4気筒2.4リットルターボに新たに開発した前輪モーター内蔵型6速AT(1モーター2クラッチのパラレル式)と、E-Four Advanced(強化型後輪独立モーター/水冷式で650V)を組み組み合わせた高出力モデル(システム出力349ps)である。全車AWDでハイブリッドという徹底ぶり。ターボチャージャーこそ内製ではないものの、そのほか要の技術は手の内化している。

ちなみに、この先に登場するセダンはFCV(燃料電池車)、エステートやスポーツはBEV(電気自動車)になるのではとの噂があるが、いずれにしろクラウンはフル電動化ラインアップで世界市場へ打って出る。

◆まるで肩透かし?と思えるほど滑らかな2.5リットルモデル

2022年9月と10月、新型クラウンのトップバッターである「クラウン・クロスオーバー」の公道試乗を行なった。まずは、2.5リットルの通常モデルのステアリングを握る。

従来通りの滑らかな走りだ。正直なところ、アグレッシブな外観は見かけ倒しかと肩すかしを食らったくらい。少なくとも市街地走行での乗り味は従来型のようなソフト路線を踏襲しているかのようで、快適だ。

しかし、新型はそこに留まらなかった。都市高速道路、続いて山道へと入っていくと車体と身体の一体感がぐんぐんと増してくる。最初に感じた滑らかな走りは走行条件が変化しても顎を出すことなく、その性格を一切変えない。

具体的にはこうだ。たとえば路面の凹凸や都市高速での路面継ぎ目を乗り越えた際、初期にフワッとそれを乗り越えるのだが、一発で揺れが収まる。幼稚な表現で恐縮だが、まるで粘り気の強いエアサスペンションのようだ。強い入力を素早く受け止め、すぐに路面に車体を押しつける、そんな印象だから、次第に信頼感がわいてくる。

この乗り味は225/55R19サイズのタイヤも深く関係する。タイヤ直径は730.1mm(従来型の18インチは659.7mm)だが、それに対してトレッド面の幅が狭い。細くて大径サイズのタイヤをイメージ頂くとわかりやすいか。

トレッド面を狭くして転がり抵抗や空気抵抗を減らして燃費数値を稼ぎつつ、直径を大きくして縦方向のグリップ力で走行性能を構築する。BMWのBEV『i3』が純正採用していたブリヂストンの低燃費タイヤ技術「ologic」にも通ずる考え方だ(クラウン・クロスオーバーはミシュラン製)。

◆走行性能での伸び代は2.4リットルターボに軍配

細くて大きいタイヤと直結するサスペンションも優秀。トヨタ初となるマルチリンク式リヤサスペンションは、「ハイパワー後輪駆動スポーツモデルでも十分に対応可能」と開発陣が豪語するほど、潜在的な走行性能が高い。

フル防振タイプのサブフレームは前後方向の間隔を広くして高い剛性と優れた静粛性(ゴーッと唸るロードノイズ遮断に効果的)を確保。また、E-Fourの要であり重量物の高出力eAxleを搭載するが、それもしっかり支えながらサスペンションアームをスムースに動かす。

走行性能の評価を高める立役者が後輪を電子制御で操舵する「DRS/Dynamic Rear Steering」だ。低速域での効果は2.5リットルと2.4リットルターボで実感できるが、走行性能での伸び代は2.4リットルターボが大きい。

低速域では、前輪と逆方向に後輪を操舵することで全長4930mm、ホイールベース2850mmの大柄ボディながら最小回転半径は5.4mと、カローラ(4WDで5.3m)並に収めた。

クラウン・クロスオーバーには18/19/21インチタイヤの設定があるが、いずれも5.4mでフロント・オーバーハングも1020mmとクラス平均値より短く、運転席からの見切りが良いため、狭い場所での取り回し性能は格段に良い。歴代の美点をしっかり継承するあたり、じつにクラウンらしい。

◆やり過ぎじゃないかと思うほど、パキッと明確な後輪操舵

50km/h前後の中速域からはDRSは別の顔をみせる。軽量化を進めたとはいえ2.4リットルターボの車両重量は1940kg(試乗した「RS Advanced」はOPのサンルーフ付き)と重量級だ。大半の重量車は急カーブにさしかかるとスッと前輪が向きを変えたところで、ボディ全体の動きは半テンポ遅れることが多い。これは物理的な課題だ。

また、クラウン・クロスオーバーの場合、セダンとSUVのクロスオーバーとはいえ、145mmの最低地上高は大径タイヤだけでなく、通常のセダンよりホイールストロークを伸ばした結果だから、ボディの動きが遅れても無理はない。

しかし、身構えてカーブに入ると、拍子抜けするほどスムースに走り抜けていく。E-Four Advancedによる高い後輪モーター性能(80.2ps/17.2kgf・m)も素直な操舵特性をアシストする。すごいのはカーブの曲率がきつくなっても同じリズムを保つこと。路面が濡れている場合は駆動トルク配分との相乗効果で、唐突に後輪が滑り出すことはなく安定傾向に終始する。

もう一押しある。「ドライブモードセレクトスイッチ」の「スポーツS+モード」で発動するDRS専用制御だ。これがやり過ぎじゃないかと思うほど、パキッと明確な後輪操舵が入る。それこそ、ボディが捩れているんじゃないかと思えるほど。実際にはボディは歪まないが、縦方向グリップに特化した大径タイヤ特有の「タイヤとボディの直結感」をクラウンで味わえるとは思わなかった。

高速域での後輪は前輪と同じ方向に動く。これにより直進安定性は高まり、横風の影響や外乱を受けた際も後輪が瞬時にいなすから、高剛性ボディとの連携でどっしりとした走りが堪能できる。

◆「しゃんとした走行性能」こそ16代目の狙い所

見た目は大きく様変わりし、走りもまるでジキルとハイドのような二面性で注目されるクラウン・クロスオーバー。16代目は本格的なグローバルカーとして日本以外でも販売される。北米市場での評価も上々だという。

デザインがウリなのはもちろんだが、2.4リットルターボで実感した「しゃんとした走行性能」こそ16代目の狙い所であり、新しいクラウンらしさであると思う。

先進安全技術や自動運転技術を20年以上、取材し続けている筆者としては、ニューラルネットワークをフル活用したLTA先読み制御、そしてDRSによるすこぶる高い直進安定性とカーブでのライントレース性が大きなツボであった。

■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★

西村直人|交通コメンテーター
クルマとバイク、ふたつの社会の架け橋となることを目指す。専門分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためにWRカーやF1、さらには2輪界のF1と言われるMotoGPマシンでのサーキット走行をこなしつつ、4&2輪の草レースにも精力的に参戦中。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も積極的に行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席したほか、東京都交通局のバスモニター役も務めた。大型第二種免許/けん引免許/大型二輪免許、2級小型船舶免許所有。日本自動車ジャーナリスト協会(A.J.A.J)理事。2022-2023日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会・東京二輪車安全運転推進委員会指導員。日本イラストレーション協会(JILLA)監事。

《text:西村直人@NAC》

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