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【ホンダ シビックe:HEV 新型試乗】『ゴルフ』を超えた!? 日本車離れした爽快ドライバビリティ…南陽一浩

自動車試乗記

ホンダ シビックe:HEV全 24 枚写真をすべて見る

取材日の7月12日は、何でもちょうど50年前に初代『シビック』が発売された日だそうで、奇しくも50周年目のメモリアルデイに11代目『シビックe:HEV』に試乗してきた。

先にいっておくと392万200円というその価格は、1972年当時に初代が担ったようなエントリークラスのそれではなく、ホンダ自身も8代目シビック以降はミドルカーであると位置づけ、経済性重視のエントリーカーの役割は、古くは『シティ』や『ロゴ』、その後は今でいう『フィット』あるいは『N-BOX』が担っているのだろう。

シビックがIMAによってハイブリッド化されたのもまさしく8代目以降。最新世代たる11代目シビックでe:HEVは ICEモデルに先行されたとはいえ、とりわけ欧州を基点に開発、つまりCセグメントのスポーツハッチバックもしくはファストバックとして世に送り出された。そうはいってもアメリカ市場に比重のあるホンダの常で、欧州メーカーのCセグ・ハッチバックとは成り立ちも背景もずいぶん異なるし、日本国内での月あたりの販売予定台数は僅か300台。いわば日欧米、いずれの立ち位置から見ても「エキゾチックなミドルカー」、それがシビックe:HEVなのだ。

シビックe:HEVで最大の関心は無論、パワートレインとその動的質感にある。新たに開発された2リットル直噴ガソリンエンジンは今どき珍しいNAだがアトキンソンサイクルで、燃料供給は最大4回に分けて多段噴射するという。104Kw(141ps)・182Nmという数値に特別さは見い出しづらいものの、レギュラーガソリンでWTLCモード24.2km/リットルという燃費を達成しているというから恐れ入る。

従来の2リットルユニットより高効率領域が拡大されており、高負荷走行時でも実用燃費を落としにくく、ロックアップ上限トルクが上がったおかげで巡航速度域でのダイレクト感も向上しているとか。そこに組み合わされるトランスミッションは2モーター内蔵の電気式CVTで、駆動用モーターは135Kw(約183ps)・315Nmを発揮する。近頃のハイブリッドで流行りの、駆動負荷を電気モーターが多めに按分するパワーユニットであることは容易に察せられる。ところが「爽快シビック」をコンセプトに、「質の高い軽快感」を目指したというホンダの創意工夫は、見事に予想のナナメ上を行ってみせた。

足の裏にパワートレインのタクト棒が貼りついているかのよう

端的にいえば、ゼロ発進からタウンスピード、あるいは郊外路のような中速域からそこそこの高速域まで、アクセルペダルのオン/オフに対する加減速のつき方が、一貫していて扱いやすい。それこそ足の裏にパワートレインのタクト棒が貼りついているかのように、忠実にドライバーの意志を再現してくれるのだ。

まずゼロ発進からのごく低速域でも、電気モーターにありがちな唐突過ぎる立ち上がりレスポンスは感じない。それでいて街乗りから郊外路といった場面でも、出足や加速の伸び感に不足や鈍さはなく、アクセルオフにした際の減速Gの立ち上がり方もごく自然で、不必要なまでにコースティングに入るでもなく、きわめて扱いやすい。また巡航速度に入ってエンジン駆動でロックアップしている間も、電気モーターがトルクを微妙に出し入れすることで、アクセル操作に対するレスポンスを保っているため、踏み込むと即座に必要なトルク、つまり追越加速が得られる。

ようはICEの苦手領域で電気モーターがオーバーライド気味に介入してくる、それだけのハイブリッドではない。2次バランサーやより高剛性化されたクランクシャフト、吸音部材の最適化といったICE側の改良ありきの上に、出力もトルクもインサイトより格段に増した走行用モーターのピックアップの良さが効いている、そんな感触だ。

単純に電気モーター優先気味の制御が力強いのではなく、エンジン自体が静粛性や滑らかさを磨いてモーターとの親和性が高まったところに、アクセルオフあるいはパーシャル時まで意識の高い緻密な制御・運用が貫かれている。コースティング空走や強めの減速Gに気を使う必要のない、過渡的領域でのシームレスさが、シビックe:HEVの切り札なのだ。

ガソリン車の“2枚ほど上手”なe:HEVの爽快ハンドリング

というのもこのパワートレイン、操作に忠実なだけではない。郊外路のようなところでスポーツモードに切り替え、思い切り踏み込んで加速してみる。するとアクティブサウンドコントロール(ASC)の増幅エキゾーストノート音に釣られ、パワーメーターの針が躍りだす。決してレブカウンターではないのだが、e:HEV専用の新デザインによるメーターパネル内で針の動きは増幅音ときっちりシンクロしており、軽やかに振れては変速ポイントでスパっと左に戻り、再び唸りだす。この「昇りつめる感」が、まさしくe:HEVパワートレインのハイブリッドらしからぬ演出、加えてCVTとはにわかに信じがたいダイレクト感でもある。

あくまでパワーメーターなので回生時には0ポイントより下に振れる。軽快な増幅音の勇ましさに比して強烈に速いワケでは決してないが、エンジンとモーターの協調制御の滑らかさありきの芸当で、トルクの山がボコボコしていたら、こうも気持ちよくノセられてしまうことはない。目と耳と足裏の摺動感、すべての感覚器に訴えてくるような加速フィールは、確かに「爽快」と形容したくなる。

トドメに、さらなる爽快さを決定づけるのは、ハンドリングだ。この日は比較対象として、ガソリンの6速MTとCVTそれぞれのモデルにも乗ったのだが、ステアリングフィールの濃密さも、上下動の懐深さも、2枚ほどe:HEVが上手という感触だった。というのもe:HEVでは、ICEモデルより重心が10mm低められている。専用のダンパー&スプリングといった足まわりに加え、後席の下でハイトを抑えたIPU(インテリジェントパワーユニット)のおかげでもある。従来モデルよりリアシートのクッション厚を確保できたため、座り心地も上々、かつIPUが組み込まれることでリアセクションの剛性も高まっているのだろう、大きな段差を乗り越えた時の差がとくに顕著で、e:HEVの方はリア周りがバタつかず、ほぼ一発で好ましく収束する。

ところでこのIPU、例によって使い切りマネージメントなので、重量とエネルギー密度からそのバッテリー容量を見込むと0.4kWh強程度ながら、EVモードでの走行レンジは1.8kmを確保したという。もうひとつ指摘すべきは、シビックe:HEVがホンダで初採用となったアルミの高電圧ケーブル。IPUからフロント側のPCU(パワーコントロールユニット)へと繋がるケーブルを従来の銅線から置き換えることで、約36%の軽量化を果たしている。

『ゴルフ』を超えた!? ドライバビリティは日本車離れしている

かくしてハイブリッドならではの練り込み、そして欧州で重ねられた走り込みが効いているのだろう、シビックe:HEVのドライバビリティは日本車離れしている。車検証記載で車両重量は1460kgと、Cセグとしては大柄だがハイブリッドとしては軽い。交差点からワインディングまで、速度域を選ばずニュートラルな回頭感が一貫していて、ブレーキの制動力の立ち上がり方にも癖はない。パワー感豊かでフロント剛性がどっしりしてグイグイ曲がっていく辺りは、ボルボのポールスター・エンジニアード系を思い出させる。

その一方で、アクセルオフ程度の減速でもきっちりストローク感を伴って横方向に食いつくメカニカル・グリップの素直さはプジョー的でもあり、実際にフロントのサスペンションは、転舵軸と駆動軸を干渉させないダブルアックスとはいえ、何の変哲もないマクファーソン・ストラット式だ。一方で、スロー過ぎずクイック過ぎず、ゲインの立ち上がりが自然な操舵感に対し、マルチリンク式のリアがきっちり&しなやかに追従していくる様は、ステアリングの握りが太いのも手伝ってか、BMWライクですらある。

装着タイヤはシビックe:HEV専用化されたミシュランのパイロットスポーツ4で、17インチとなるエントリーグレードには採用されない235/40ZR18ながら、下駄を履かされたどころか、乗り心地のしなやかさまで含め、まったく日本車離れしていた。あとで開発担当エンジニアから聞いたところによれば、e:HEVの開発現場ではVW『ゴルフ7』次いで『ゴルフ8』がベンチマークだったそうだが、むしろシビックe:HEVの乗り味クオリティというかしっとり感は、それ以上か、よりプレミアムな欧州PHEVに比肩する。

ひとつだけ欧州PHEV勢に明らかに譲る点は、さざ波だって荒れたような舗装路面では、タイヤノイズがそこそこ車内に侵入してくることだ。静粛性の追求は『アコード』や『レジェンド』の世界観とシビックのそれを分けるポイントかもしれないが、ハイブリッドが好調な海外市場でDセグからのダウンサイザーを取り込めるかどうか。また国内市場ではCVTアレルギーの多い欧州車オーナーにもアピールするかどうか。その辺りが価格を含め、シビックe:HEVがプレミアムなHVとして受け入れられるか、成否のカギとなりそうだ。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★

南陽一浩|モータージャーナリスト
1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

《text:南陽一浩》

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