アクセスランキング

【DS 4 海外試乗】ハッチバックの概念を揺さぶるハイレベルっぷり…南陽一浩

自動車試乗記

DS 4 PHEV(プルミエール・エディション)全 28 枚写真をすべて見る

直近のDSのラインナップといえば、『DS 7クロスバック』と『DS 3クロスバック』という、サイズ的には大小両極端のSUVに、最近になって4ドアのクラシックなアッパー・サルーンである『DS 9』が登場したところだった。サイズ的にも販売ボリューム的にもラインナップ内でど真ん中のミドルレンジといえる、Cセグメントがついに日本市場に上陸したのは既報の通り。それが『DS 4』だ。

DS 4が日本市場に前のめり気味に攻めてきたと感じさせるのは、導入当初より旧PSAがここ数年、前面に押し出してきた「パワー・オブ・チョイス」を貫いてきたこと。つまりPHEVからガソリン、ディーゼルまですべて揃えることで、パワートレインの移行や選択肢はユーザーの用途や好みに委ねるべき、という欧州市場と同様のポリシーで上陸してきた。

具体的には180psのICE+110psの電気モーターでシステム総計225ps・360NmのPHEVである「E-TENSE 225」と、1.2リットルターボのガソリン130ps・230Nmとなる「ピュアテック130」、そして130ps・300Nmの1.5リットルディーゼルである「BlueHDi 130」が選べる。今回はフランス本国で試乗したPHEV版、グレード的には「リヴォリ」のナッパレザー内装仕様に準ずる欧州の「プルミエール・エディション」で、そのインプレッションを報告する。

計算しつくされた全体と彫刻的な細部のボリューム感

まず外観だが、写真で見るより要素は少なく洗練された雰囲気が強い。ポップアップ式のドアハンドルや、ショルダーラインよりもフェンダー周りが深々と強調されたプレスライン、直線的なグラフィックに、煩わしさは感じさせない。チーフデザイナーのティエリー・メトローズは前職ルノー時代に『アヴァンタイム』のエクステリアを手がけた通り、アヴァンギャルドな佇まいを作り出すことに定評がある。その手法は、実寸大クレイモデルで全体のプロポーションを削り出して決め込むのに、とにかく時間をかけたという。

凝っているのにそう見せない秘密は、計算しつくされた全体と彫刻的な細部のボリューム感にある。個人的に惜しむらくは、DS 3クロスバックやDS 7クロスバック辺りでは、塗装膜下にプリントとなってシルエットに影響しなかったアンテナが、ルーフ後端にシャークアンテナとして見えていること。ただしこれは後述するインフォテイメントの接続性確保のためで、致し方なしの部分でもある。

いずれ圧巻は、ドアを開いて車内に乗り込んでから。Cセグメントの一台だが『ゴルフ8』やアウディ『A3』というより、メルセデスの『Aクラス』やBMW『1シリーズ』が想定ライバルといえるほど、インテリアの質感は高い。

Cセグの水準を大きく超えたインテリア

試乗車は欧州向けの「プルミエール・エディション」で「リヴォリ」に準じるナッパレザーの内装トリム仕様だったが、レザーに覆われた面積がとにかく広い。前席シートの背面やセンターコンソール上のパームレスト、コンケーブ状でアンビエントライトがグラデーションを織りなす前面ダッシュボードに、ドアパネルの収納ポケット以外のほとんどの部分にレザーが張られ、Cセグの水準を大きく超えている。DセグやEセグからのダウンサイザーも目を奪われるだろう、静的質感の高いインテリアなのだ。

物理的に上位クラスに叶わないはずの横方向スペースを、DS 4は「DSエア」と呼ばれる室内エアの質をも管理するベンチレーションシステムを採り入れることで、視覚的にもスペースを巧みに稼ぎ出している。センター部分のエアコン吹き出し口はボタンスイッチ類の上下に馴染ませ、左右のエアコン吹き出し口はワイドにドアパネル上に配し、広々した空間を作り出している。よく見ればダッシュボード中央、アルミニウムのトグルスイッチ列とベンチレーターレバーは、幾何学的にインサートと一体化しつつ組み込まれている。外観と同様、凝っているけど凝って見せない、洗練された造りだ。

さらに、流線形にステッチラインの施されたセンターコンソールとドアパネルのエルボーレスト、そしてシートが、前列乗員をコクーンのように包み込む効果で迫ってくる。とくにドアパネルの効果はリアシートにも共通で、5名定員とはいえセンターコンソールも備わっており、大人4人が快適に過ごせる室内といえる。視覚からも触覚からも、ソフトさとスムーズさでもって身体を絡めとられるような官能的な静的質感はDS 4独特のもので、これまたCセグ離れしている。とはいえ電動パワーハッチゲートの備わる荷室は容量も使いやすさもハッチバックそのもので、430~1240リットルの大容量と6:4分割のリアシートによるヴァーサタイルな造りだ。

最新鋭かつ最上の車内インフォテイメント

もうひとつ室内で注目すべきは、クアルコムとハーマン・インターナショナルの協力を得て開発され、新しいプジョー『308』と世代を同じくする最新鋭のインフォテイメントシステムだ。10インチのワイドタッチスクリーンをメインに、センターコンソールの手元には5インチのタッチパネルがある。後者は「DSスマートタッチ」と呼ばれ、タッチパネル内のセンターから6方向それぞれに6つの機能をあらかじめアサインできる。当然、ドライバー正面のメーターパネル表示にナビ画面を映し出すといった連動もしており、スマホとのエミュレーションや音声認識を含め「DSアイリス」という車内インターフェイスによってまとめられている。

使い勝手としては、操作のために片手を走行中にメインスクリーンまで持ち上げる必要がなく、パームリストから指先だけを5インチ・タッチパネル上で、任意の方向に指でなぞる。すると例えば家族や職場など特定の電話番号に発信したり、好みのエアコン温度設定を呼び出したり、機能やアプリを開くだけでなく、内々の階層まで分け入ったタスクをローンチできるのだ。プジョー308GTではこれがホームボタンを含む6つのバーチャルトグルに指をのせるとローンチする訳だが、長押し&ドラッグだけで最重要アプリやウィジェット、タスク機能などを前もってパーソナライズする際の直観的な使い勝手よさといい、車内インフォテイメントのインターフェイスとして最上のひとつといっていい。

コーナリングの切れ味も楽しませるPHEV

225ps仕様のPHEVパワートレイン自体は、プジョー『508』やDS 7クロスバックで既出で、e-EAT 8速のトランスミッションも同じ。これら2車種では穏やかに感じられたPHEVパワートレインだが、ハッチバック・ボディのDS 4では、すこぶる軽快そのもの。痛痒のないトルク・レスポンスの素早さに加え、1600mmを超えるワイドトレッドのおかげか、進入時のターンインから旋回中も雑味のないニュートラル・ステアで、コーナリングの切れ味でも楽しませてくれる。しかも試乗車は245/40R20という扁平かつ大径のタイヤ&ホイールでグッドイヤーを履いていたが、ごく低速域でも乗り心地で固さや突き上げによる不快感は皆無だった。

とくにドライブモードをコンフォートに入れている間は、Cセグとして初採用となる前方の路面状態を読み取って可変式ダンパーの減衰力をアクティブ制御する、DSアクティブスキャンサスの働きが大きい。デフォルトのノーマル時からしなり性の豊かな足まわりに、さらなる上下ストローク量が上のせされ、それでいてフラット・ライドが失われないのだ。ちなみに車重負荷のより小さな非PHEV仕様については、205/55R19のミシュランeプライマシーを装着していたので、一層の乗り心地の柔らかさが期待できそうだ。

今回、満充電スタートではなかったのでEVモードでの航続距離は試せなかったが、リチウムイオンバッテリーの容量は12.4kWhと大き目で、フランス本国の発表値による車重は1653kg、最大航続距離は56kmとなっている。

類を見ない独自の完成度を誇るプレミアムハッチ

いずれにせよ、ハンドリングはプジョーとは異なる回頭性フィールながらも機敏でリニア。足まわりには、シトロエンに似た上下ストロークはあるが、柔らかさに一層の滑らかさで磨きがかかっている。そういう独自バランスのリッチな動的質感を、DS 4は主張してくる。ホイールベースは2680mmと、比較的コンパクトでありながら、大径タイヤのジャイロ効果と静粛性の高さゆえ、高速巡航時の直進安定性と静粛性は、まるで上位セグメントの車に乗っているかのような錯覚すら覚える。Cセグメントの水準をはるかに超えるインテリアが、その快適性の見事な下支えになっていることはいうまでもない。

いってみればDS 4は、Cセグ・ハッチバックに慣れ親しんだ人々から、DセグやEセグのサルーンからのダウンサイザーまで、いずれの双方をも唸らせる凝縮度の高い一台といえる。インテリア質感の高さから乗り心地の滑らかさ、動いている間のスムーズさという点で、既存のプレミアム・ハッチバックに比肩するどころか、類例がない。それだけDS 4はフレンチ・プレミアムのハッチバックとして、独特の完成度を築き上げているのだ。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★★

南陽一浩|モータージャーナリスト
1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

《text:南陽一浩》

編集部ピックアップ

TOP