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【メルセデスベンツ EQA 新型試乗】航続距離は422km。普通に使える感じはするけれど…中村孝仁

自動車試乗記

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なんとなく電気自動車(EV)の世界が現実味を帯びてきたような気がする。もちろん、日本はまだまだEV化が進んでおらず、世の中はハイブリッドが支配的だ。

EV化が進まない背景の大きな理由は、実際に使うユーザーが充電施設の少なさや実際に充電にかかる時間の長さなどに懸念があるからだ。かくいう私も、まさに一般的なユーザーと同じ考えでいた。そんなわけだが、職業上もEVに乗らないわけにはいかないし、PHEVが増えてくると、自宅に充電設備がない限りほぼガソリン車に乗っているのと同じ状況になってしまうことから、今年2月、我が家に充電設備を設置した。もちろん普通充電器である。でもこれがあることでEVを積極的に借りてこようという気になった。

今回借用したのはメルセデスベンツ『EQA250』だ。誤解を恐れずに言えば限りなく『GLA』をEV化したモデルである。本国には3種のEQAが存在するが、日本市場に導入されているEQAはこのうち最もベーシックなもので、140kwのモーターと66.5kwhのバッテリーを搭載している。かなり大きめのバッテリーを搭載したことでWLTPによる可能走行距離は422kmとのこと。まあそこまではいかないにしても乗り出した時から残走行可能距離は400kmを超えていたから、これなら普通のガソリン車と同等の使い方ができるな…と感じたものである。

モーター音すら聞こえない静粛性の高さ

静かなことは言うまでもないのだが、さすがにいわゆるハイエンドクラスのEVとなると、その遮音性は一段と入念に行われているのか、静かな住宅地をゆっくり走り抜ける時などは、本当に無音を実感する。それにメルセデスベンツのEVはこれまでにも試乗した他の日本製EVあるいはPHEVと比較して、モーター音がまるで聞こえない。

例えば日産『リーフ』などはそれなりに味付けした音を出している印象があるし、トヨタのハイブリッドモデルなども、電動走行時には独特の冷たい感じの音がするのだが、EQAにはそれが全くないからほぼ無音と表現してもよいと思う。

スピードが上がれば、風切り音やロードノイズなどの音量が上昇するから無音というわけにはいかないが、およそメカニカルノイズは耳に届かない。快適な要因はここにあると思う。また、出足の鋭さが桁外れであることはEVの大いなる特徴で、この点は内燃車ではとてもかなわない。

90年代に乗った電気自動車はこれを楽しもうとするとあっという間に電気が消費されて航続距離が落ちた。初代日産リーフもそうだった。そんなトラウマから、EVでドンとアクセルを踏むのはいつも躊躇していたが、航続距離が400km以上あればそんな心配もない。なのでその「ドン」を試してみたが、やはり痛快そのものである。

EVをことさら強調するところはほとんどない

室内外を通じて、敢えてEVをことさら強調するところはほとんどない。インテリアもメーターパネル以外でEVを感じるところはない。給電口はボディサイドに急速充電口。リアのバンパー上に普通充電口が装備される。

考えてみれば、400km以下の走行距離なら、家に帰って普通充電口にコンセントを挿しておけば、翌日にはフル充電されているのだから、ある意味ではガソリン車よりも便利かもしれない。わからないのは、家庭で満充電した際は借り出してきた時よりも残存走行距離が短くなり、最後は朝、コンセントを外してメーターに示された可能走行距離を見たら388kmと20km程少なくなっていたことだ。こうしたことはもう少しEVのことを勉強しないとわからない。

それにしてもEQAはEVであることをことさらに隠しているわけではないだろうが、エンジン(いやエンジンはない)ルームを見ると、まるで内燃機関車のような景色がそこにあることだ。まあ、それはどうでもよいことなのだがその景色を見てなんとなく嬉しくなる自分がいた。

ステアリングにはパドルがつくが、これはトランスミッションのコントロールではなく回生ブレーキの強さコントロール。4段階に調整可能で、ダウンシフトをするようにパドルを引くと回生の強さを変えられるので、減速の際は有効に使える。その代わり、加速していくときに元に戻しておかないと、通常走行でアクセルを戻した時に強烈な減速Gを食らうことになる。

本当にEVの時代は来るのだろうか?

1週間EQAを使ってみて、ほぼガソリン車と同等の使い勝手を持っていることを感じた。今年5月、政府は2030年までに国内に急速充電機を3万基設置する計画を公表した。これは現在日本国内に存在するガソリンスタンドの数とほぼ同じ。しかし、たいていのガソリンスタンドは少なくとも一つのスタンドで最低でも4台くらいは一度に給油できるのに対し、EVの場合は少ないと1基。多い場合でも3基以上存在するところは見たことがない。つまり、3万基と3万件では意味が違うということ。

クルマを見た時になんとなく普通に使える感じはするけれど、現実問題として充電設備が充実しているかといえば、実は案外そうでもない。それにインフラ設置の伸び率は鈍化していて、理由は設置しても儲からないから…という話もある。こうした現実を見ると、本当にEVの時代は来るのだろうか??という素朴な疑問が湧いてしまうのもむべなるかなと思うわけである。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア_居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来44年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。

《text:中村 孝仁》

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