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【プジョー 508SW ハイブリッド 新型試乗】自動車選びの基本が変わる…中村孝仁

自動車試乗記

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あと14年で内燃機関がEVに置き換わるのか

何でも、欧州委員会は2035年以降、ハイブリッド車を含む内燃機関エンジン搭載車の販売を禁止することを検討しているとか…。

個人的考えを記すと、「無理だと思います」である。2035年と言えばあとたったの14年だ。14年を長いと思うか短いと思うかは別として、自動車の開発なんてそんな一朝一夕に出来るものではないし、そもそも買う側の準備など全くできていない。

インフラだってそう。高速道路にある充電施設なんてあって精々2つぐらい。そこに大挙して充電が必要なクルマが押し寄せたら、はっきり言ってパニックになる。しかも一回の充電は今も30分はかかるし、それで満充電にはならない(電池残量にもよるけれど)。

そんなわけで、あと14年で全部のクルマをEVに置き換えるなんて無理。ホントにそうした規制が始まったら、古いガソリン車やハイブリッド車を皆さん大事に乗り続けることになると思う。では、今後一番手っ取り早く、そして存続可能な自動車の姿が何かといえば、個人的にはPHEV(プラグインハイブリッド)じゃないかと思うわけだ。メーカーが言う「電動化を目指す」というメッセージは多分に落としどころをこのあたりに見ているような気がしてならない。そうしないと多くの国で膨大な数のエンジニアが職を追われ、それこそ全然サスティナブルじゃなくなる。

ただ、今まで通り内燃機関一辺倒は多分まずい。残念ながらわが国ではまだPHEV車がどの程度CO2を削減できるのか明確な数値は出ていないけれど、実際に使ってみて肌感としては通常のガソリン車に対して燃費がだいぶ良いことを考えると、それなりの効果はあるのだと思う。プジョー『508』のPHEVだって、350km走った燃費は17.1km/リットルと相当なものだった(あくまでメーター表示)。

違いはデフォルトモードがエレクトリックであること


プジョー『508』に採用されているPHEVのシステムは11.8kwhというサイズのリチウムイオンバッテリーを後席床下に置き、110kwの電動モーターをエンジンと共にフロントに搭載、前輪を駆動するFWDである。元々付いていたドライブモードにハイブリッド、エレクトリックが加わり、従来のスポーツとコンフォートモードを残し多4つのモードが選択できるようになった。

大きな違いはデフォルトモードがエレクトリックであること。バッテリーが充電されてさえいれば、走り始めは電気である。これ、早朝の住宅街では重宝だ。つい先日某メーカーのスポーツカーを早朝動かさなくてはならなかったのだが、始動した瞬間に爆音が出る。結構肩身が狭い。PHEVなら音もなく発進してくれるから精神的にも迷惑をかけないから気楽である。

といって出ていく時は良いのだが、これが充電すると少し話が変わる。帰宅してすぐにソケットを繋いで充電を始めると、結構な音で唸る。まあ唸るのはほんの数分ですぐに静かにはなるのだが、その数分は部屋にいても前のパーキングスペースで唸っているのが聞こえるレベルの音だから、表で聴いたら結構な音量だと思う。

電気だけでは関係ないが、トランスミッションは新たにe-EAT8という、専用の8速ATが付く。これ、トルコンに代えて湿式多版クラッチを用いたものだそうである。EV走行が可能な距離はWLTCモードで56kmというのが公式なアナウンス。しかし現実はフル充電でも走行可能距離が最大で38kmしか出なかったし、普通に走った場合それよりも若干少ない走行しかできないことは確認済み。もっともこれは走行条件などによって異なると思うので一概には言えないが、少なくともお借りして6日間使用した結果はそうだった。

それにしても508は背が低い


走りは非常にスムーズである。それに静粛性が高い。エンジンがかかったとしても電動走行からガソリンへ移行した瞬間はまず気が付かないレベル。移行も極めてスムーズだ。ブレーキだけは残念ながら回生ブレーキを使う「ハイブリッド車あるある」で、停車直前のブレーキフィールに変化がある。それを見越した操作をしないと時々カックンブレーキ的な止まり方をする。

走行モードは前述した通りでデフォルトがエレクトリック、これに乗り心地重視のコンフォートと最もスポーティーなスポーツ。あとはハイブリッド車の良さを味わえるであろうハイブリッドモードがある。電気がなくなると自然にハイブリッドモードに移行するようで、快適に乗りたい時にコンフォート、少しコーナリングを愉しみたい時にスポーツモードという選択のレベルである。また気分に合わせてメーターパネルの表示をミニマム、ダイヤル、パーソナルなどいくつか変更できるのも面白いし、508はメーターディスプレイ内にナイトビジョンを映し出せるのも特徴である。もっともそこにばかり目をやっていると危なそうだが…。


それにしても508は背が低い。ワゴンのSWで全高1420mmは他に例がない。ライバルで一番低そうなのはメルセデス『Cクラス』の1455mmで、一番差があるVW『パサートヴァリアント』は1530mmと110mmも背が高くなる。まあ、その分積載容量が限られたり、あるいは乗降に少しだけ難があったりするかもしれないが、すべてはそのカッコよさを実現するため。最近はこのカッコ良さが非常に大切になっている気がする。

PHEVにしても電池の搭載容量によって、EV走行の可能走行距離が変わるが、多く搭載すればその分重量増となり、ある意味本末転倒の結果になることもあって、そのあたりに新しい価値基準が出来てくる気もする。スタイル、電池容量などこれからの自動車選びは基本が変わりそうだ。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来44年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。

《text:中村 孝仁》

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