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【ダイハツ キャスト 700km試乗】「N-ONE」との勝負は利便性と安全装備でリード、走りはどうか

自動車試乗記

ダイハツ キャストスタイル全 25 枚写真をすべて見る

ダイハツの軽セダン『キャストスタイル』で700kmあまりツーリングする機会があったので、インプレッションをリポートする。

2015年9月に登場したキャストシリーズは、デザイン性や内外装の質感を上げた“ちょっぴりプレミアム”な軽自動車。ひとつのボディでSUVライクな「アクティバ」、ホットハッチ 風味の「スポーツ」、そして上質系の「スタイル」の3種を作り分けるという戦略であったが、今春スポーツとアクティバはディスコンとなり、このキャストスタイルだけが残ったという格好である。キャストスタイルにはターボと自然吸気があるが、試乗車は自然吸気版だった。

ドライブルートは東京を起点とした甲州地方周遊。高速道路は東京の千住新橋から神奈川の相模原までの70km強を走っただけで、あとはすべて一般道。相模原からは山中湖までの道志みち、富士山麓の山道、山中湖から三ツ峠を越えて甲府に降りる御坂みち、甲府盆地の勝沼から甲斐信ヶ岳山麓の西沢渓谷までの国道140号線往復、勝沼から国道411号線で標高1500m近い柳沢峠を越えて東京の青梅へ…と、山岳路の滞在時間が非常に長かった。おおまかな道路比率は市街地3:郊外路2:高速1:山岳路4。1名乗車、エアコンAUTO。

では、長所と短所を5つずつ列記してみよう。

■長所
1. 一見フツーな感じだが、その実かなり精緻に作り込まれた外観
2. コテコテ系だが軽離れした質感のインテリア
3. 軽自動車の常だが車中泊に便利なフルフラット機能を持つ
4. 最低地上高に余裕があり、フラットダートくらいなら十分行ける
5. まあまあ良好な燃費

■短所
1. しなやかさを欠き、ハーシュネスの強い乗り心地
2. ロードノイズの透過音が大きめ
3. 自然吸気エンジンが車両重量に対してやや力感不足
4. 路面からのインフォメーションが希薄でワインディングは不得手
5. シートの疲労耐性は低め

ダイハツらしいネアカでノリの良いキャラクター


まずは総評から。キャストスタイルはダイハツらしいネアカでノリの良いキャラクターをもつクルマだった。外装は一見それほど目立つ印象ではないが仕立ては巧妙で、ヨーロッパのミニカーと並べても存在感では案外負けてない。インテリアも奥ゆかしさなど何のそのというコテコテ系の装飾だったが、変にセンスを盛り込もうとせずコテコテを素直に表に出しているのがかえって清々しかったのと、色使いがわりと良かったことで、これまた好印象だった。使い勝手もフルフラット、収納、後席スライド機能、全般的に良好だった。

これでトコトコとどこまでも気ままに走ってゆく気にさせられる走行感や疲労耐性があればなかなか良い軽ツアラーと言えたのだが、そこはキャストスタイルの明瞭な弱点。ハンドリングは2018年に4000km試乗を行った同社の軽ベーシックセダン『ミラトコット』に遠く及ばず、乗り心地やシートの仕立ても中長距離向きではなかった。あくまでシティコミュータとして使うのがこのクルマには合っている。

ミニやフィアットにも負けてないエモーショナルなデザイン


では、項目別に見ていこう。まずはハイライトである内外装のデザイン、質感から。キャストシリーズはもともとデザイン性を売りにしていたが、ドライブ中、いろいろなところでスタイリングを観察すると、なるほど良く作り込んであると感じさせられることしばしばだった。

風景に埋没せず、といって過剰に存在を主張するわけでもなく、どこを走ってもほどよく可愛く見える。金属と樹脂混合のボディ外板のカービング、プレスラインなどが緻密に作り込まれ、丸目のヘッドランプも眼差しがきつすぎず、愛嬌を感じさせるものだった。

軽自動車は全長3.4m×全幅1.48mの枠に収めなければいけないというハンディがある。クラッシュ要件と室内寸法のバランスを考えると、とくに全幅は1ミリも無駄に使えないというくらい制約が厳しい。キャストスタイルは写真に撮って二次元で見ると平板に見えるが、実物は非常にふくよかな印象を受ける。

ドライブ中、BMWミニやフィアットなどの ヨーロッパ製ミニカーと駐車場で何度も隣り合わせたが、エモーショナルな表情という点では結構負けていない。厳しい寸法制約のなかでどう削れば情感豊かになるか、クレイモデラーの苦労がしのばれた次第だった。

インテリアの作り込み、使い勝手も上々


インテリアも外観に負けず作り込まれていた。インパネ、ダッシュボード、ドアトリムなど あらゆる部分について面取りが工夫されていた。とくにドアトリムは、こんなに薄いピッチでよくドアの厚みを表現できたものだと感心させられたほど。

試乗車はプライムコレクションという、木目調の樹脂プリントパネル、合成皮革のシート地、2トーンカラーのドアインナートリムなどで装飾されていた。あまり正攻法なセンスとは言えず、ちょっとコテコテ系な空気を感じさせるものだったが、それもまた大阪企業ダイハツらしいと言えばらしい。下手に気取らず自分の思いを素直にぶつけたクルマ作りの気持ち良さがあった。


使い勝手も良好だった。後席は左右分割スライド&シートバック可倒機構を備え、居住区と荷室の比率をわりと自由に設定できる。荷物が少ない場合、後方にスライドさせておけば足元空間は広々。荷室を広げるため前端までスライドさせても、自然に着座できないほど狭いわけではなく、十分に大人4人が座れるだけのスペースは残る。

また、これはキャストの専売特許ではないが、前席を前端までスライドさせてシートバックを倒すと簡易フルフラットになる。このドライブのさいは山梨の西沢渓谷近くで車中泊をしてみた。フルフラットの寝心地はクルマのシートバックの設計によって結構差があるもの。キャストの場合、寝心地はそれほど良いほうではなかったが、しっかり横になって寝られるというだけでも有り難いものである。真夏の暑い季節以外なら、気温に合ったスペックの寝袋を持ち歩くことで十分に車中泊ができそうであった。

乗り心地の改良がほしかった

静的質感についてはなかなか良い出来であったのに対し、動的質感については正直、期待外れの感が否めなかった。

空振り感が大きかったのはシャシー。市街地から高速までフラット感が足りず、ヒョコヒョコと常時揺すられているような乗り心地で、あまり落ち着かない。路盤の段差や道路の補修部分での突き上げもきつく、ガチンという衝撃が伝わる。ロードノイズも大きめだった。

標準装着タイヤはダンロップ「エナセーブ EC300+」で、タイヤサイズは165/55R15。このサイズは通常、ターボモデルに適用されるもので、自然吸気の、しかもゆるキャラ系が標準で履くというのは珍しい。このサイズだからといって必ずしも乗り心地が悪くなるとは限らないのだが、少なくともキャストスタイルはお世辞にも上手く履きこなしているとは言えなかった。


2015~16年頃はダイハツの開発陣が乗り心地チューニングのバランスを見失い気味だった時期で、格上のAセグメントミニカー『ブーン』(トヨタにも『パッソ』としてOEM供給されている)もキャストスタイルと同様、ガチンガチンとした感触の乗り心地だった。別に設計が悪いというわけではないので、モデルライフ途中でフリクション感を減らす改良を加えてほしかったところである。

乗り心地が悪いぶん、山岳路では敏捷な運動性を見せてくれるかと思いきや、そのステージではクルマの荷重移動やタイヤのグリップ具合がさっぱり伝わってこず、意のままにというにはほど遠かった。前サスペンションが突っ張ったままアンダーステアが唐突に強まるような感じである。山岳路に限らず市街地から高速までのすべてのステージにおいて、フラット感、コーナリング時の自然な挙動、乗り心地はミラトコットのほうが断然上であった。

ミラトコットより120kg重いぶんがネガに

パワートレインのパフォーマンスは、軽自動車を転がすには十分なれど、余裕はあまり感じられなかった。「KF」型エンジンのスペックは最高出力52ps、最大トルク6.1kgmと、トコットと同一、CVTの変速レンジも同じだ。異なるのは最終減速比で、ファイナルギアは加速重視のローギヤードタイプだ。

が、トコットに比べて車両重量が120kg重いぶんをカバーしきれておらず、静止時からの飛び出し、中間加速ともフィールは重々しかった。ステアリングにはCVTの変速比を低くキープして駆動力を増すパワースイッチがついているが、早くにパワーの限界が来るため、有効性はあまり感じられなかった。

燃費はローギヤードなわりにはまあまあ良好だった。東京・葛飾を満タン状態で出発し、甲信地方の山岳地帯を巡り、葛飾に戻った時点での走行距離は681.4km、給油量は30.08リットル、オーバーオールの燃費は22.65km/リットル。燃費に厳しい山岳路の割合が高く、かつ大してエコを気にせず運転していたことを考えれば、十分に受け入れられる数値であろう。

ロングドライブ耐性は?


ロングドライブのし心地についてもう少し。プライムコレクション仕様の合成レザーシートは見た目はなかなか上等そうで、インテリアのプレミアムな雰囲気づくりに貢献している。シートバックの上体保持も悪くない。ただし、合成レザーの張りがいささか強すぎるため、体へのフィット感は良くなく、疲れもたまりやすかった。ファブリック生地ならもう少し良いかもしれない。

ツーリングで使いやすかったのは前席まわりの収納スペースが豊富なこと。助手性収納はコストへの影響度が意外に大きいので、低価格モデルでは省かれることが多い。実際、ベーシックなミラトコットではそこがウィークポイントとなっていた。


助手席のダッシュボード部にはグローブボックスの他にも開閉式のボックスが。センターアームレスト上にもフタ付きボックス。また、センターコンソール下のボックス、運転席のAピラー脇のカップホルダー、室内ドアハンドル、さらに隙間という隙間がことごとく小物置きに使えるように設計 されていた。助手席側にはシートアンダートレイもある。こういうクルマはマイルームのように使えるので、親しみが出るところだ。

安全システム「スマートアシストIII」はステアリング介入機構を持たず、車線逸脱警告や昼間の歩行者検知機能などにとどまるため、普段はその存在を意識することはほとんどない。 先行車追従型クルーズコントロールなどの便利機能もない。最近はホンダの「ホンダセンシング」、日産の「プロパイロット」など、軽自動車でも高機能な運転支援システムを持つモデルが増えてきたので、アップデートが求められるところだ。ちなみにヘッドランプはハイ/ロービーム自動切換タイプで、照度や照射範囲もまあまあ良かったのは好印象だった。

まとめ

内外装の仕立てやデザインなどの静的質感に優れる一方、乗り心地やハンドリングなどの動的質感では前時代的という二面性を持ったキャストスタイルは、基本的にシティコミュータ、近距離ドライブ向きのクルマだった。近距離であればどんなクルマでも疲れを感じたり 運転に飽きたりする前に到着するので、動的質感はそこまで不満のタネにならない。遠出の機会がごく少なく、上質感のある軽自動車を欲する顧客には悪くない選択肢といえる。

半面、休日にしょっちゅう遠出をするようなカスタマーにとっては、その動的質感が少なからずネガティブに感じられるだろう。シートアレンジや室内収納に優れるなど、中長距離向けの資質もないわけではない。足回りのチューンがもう少し良ければと、返す返すも惜しまれるところである。

ライバルとの比較だが、全高1.6m級のお洒落軽自動車という観点ではホンダ『N-ONE』が 唯一無二の競合と言える。後席シートスライドを備え、荷室を広く取ることもできるといった利便性と安全システムの機能レベルではキャストスタイルがリード。内外装についてはお好み次第。視界の良さ、走り、ロングドライブ耐性ではN-ONEの圧勝といったところか。

《text:井元康一郎》

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