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【ダイハツ ロッキー 新型】キャラクターラインではなく「面」で勝負[デザイナーインタビュー]

自動車ニュース

ダイハツ ロッキーのデザインスケッチ(修正スケッチ)全 19 枚写真をすべて見る

2019年末、ダイハツからコンパクトSUVの『ロッキー』が発売され、月3000台以上と販売は好調に推移している。その大きな理由として、5ナンバーサイズ、167万5000円からという価格、DNGAプラットフォームによる軽快な走りなどが挙げられるが、やはりデザインの魅力なくしては語れないだろう。

そこで改めてダイハツ ロッキーのデザインについて詳しく話を聞いた。

DN TRECをベースに


話を伺ったのは、ダイハツDNGAユニット開発コネクト本部デザイン部第1デザイン室国内スタジオ主担当員の奥野純久さんで、ロッキーの内外デザイン全体のリーダーを務めた方である。

もともとこのロッキーのベースは2017年の東京モーターショーに出展された『DN TREC』。これはデザイン部門発信のニーズ調査が目的だった。「昨今、市場にはアグレッシブでスポーティ、ウェッジが効いているSUVが多くある中で、ダイハツらしい素の良さや、シンプルな良さをどうやって伝えるか。そういったクルマを作りたいという発想から生まれた」とDN TRECの背景を語る。

その理由は、「若者のクルマ離れを踏まえ、その若者に反応してもらえるデザインはどういうものかを検討するためだ。iPhoneなどには若者はしっかりと反応してくれるが、クルマが表現するシンプルさやクリーンさにはなかなか来てくれない」ことから方向性を探るものだった。


そこで奥野さんたちは「アスレジャーや最新のスポーツ用品」に注目した。「以前からポケットがいっぱいついているアウトドアの服などはあった。それらが今では市民権を得て、普通のファッションとなっており、最近はもっと進んでシンプルで、生地やポケットの内側に機能が備えられているなど、アウトドア用品が本格的な機能とスタイリッシュさが揃えられるようになった」と市場の状況を語る。

さらには、「ファッションとスポーツメーカーがコラボをした服や靴も出てきた。これみよがしに機能を見せるのではなく、素材や道具の進化によって機能を見せないスタイリッシュさ。つまり過度に意匠したものではないイメージ」とポイントを説明し、「それをどうクルマに反映させるか」が課題だったとのことだ。

また、このクルマはコンパクトサイズなので、「気軽に街乗りで使うシーンから、ちょっと足を伸ばして、少し生活の範囲を広げるクルマでもある。最近では、例えばトレッキングなど、少し軽くてトレンディでおしゃれなスポーツが流行って来ているので、そういったものを楽しむ方々、特に若い人に反応してもらえるものを考えた」と話す。

その結果、「出来るだけ水平基調でサイドの面には極力キャラクターラインなどを持たせないデザインが始まった」と述べ、「出来るだけヘッドランプやリアコンビなどもつけたくないくらい、つるっとした形を作りたかった。全部埋め込んでほとんど突起もなく、ジェリービーンズやソーセージにタイヤがついているくらいのシンプルで、かつだからこそ目立つものをデザイン」とその想いを語る。さらには、「前も後ろもほとんど意匠が一緒。サイドも真ん中から前後対称にしようかという勢いだったがさすがにそれは変だった(笑)」としながらDN TRECを作り上げた。

若者を魅了するデザイン

ショーの結果が非常に好評だったこともあり、本格的な開発に入った。デザイン部としてはこれをベースにという思いがあり、企画部門からも、「ユーザーの方向性などを調べた結果から、これをベースによりお客様にわかりやすい表現にすべきなどの議論が出た」。そういったことから、「デザイン部が提案する若者を魅了するスタイルとともに室内の広さ、そしてコンパクトならではの気軽さを備えていること。また、SUVはもともと安心感があるので、それを低価格で提供する」ことをコンセプトに、“アクティブ”“ユースフル”“コンパクト”がコンセプトワードとされた。

デザイン部門としては、「ボディ骨格はSUVとしてしっかりしている」というユーザー調査の結果を踏まえながら、若者の価値観も調査。「クリアで洗練させながらも、相反するアクティブや強さというキーワードを抽出」した。そして、「クリア、洗練、アクティブはテイストとして。同じくアクティブと力強さは骨格と掛け合わせ、これらを組み合わせることでオリジナル性が出せるのではないか。関係するいろいろな写真などを集めたうえで、すっきりしながらインパクトのある商品を目指しデザインしていった」と当時を振り返った。

若者だけでなく、より幅広いユーザー層に

奥野さんによると、「デザインチームもここまで到達するには時間がかかったものの、すごく集中して一気に進めたので意志が統一されていた」が、「ここからがとても苦労した」という。それは、「社内での承認を得ていくうえで、企画内容や若者向けのポイントを説得しながらも、やはりSUVらしい力強さをもう少しつけるべきとなった」からだ。

その理由は、「最終的には若者ばかりでなく、より幅広くお客様を取るため」だった。そこで下半身にクラッティングなどを装備したほか、「四角くごつくしようとか、スポーティーで前傾姿勢を感じるようなデザイン。また、ボディを動かすことでウェッジ感を出すことも考えた」と奥野さん。基本骨格はほぼそのままに、そういったデザインスケッチを描いていったが、最終的にはベルトラインは水平にして進められた。


このデザインスケッチをもとにクレイモデルを作り上げていったが、「ショーカーではハード要件もそれほど考えていないので、クリーンで洗練され、サイドのボディ断面などももっとボリュームがあった。しかし、このモデルでは、全体として優しく可愛いイメージで、本来のSUVが持っている力強さは、ちょっと弱く感じ、また、メリハリも少し少なかった」と奥野さん。

そこでモデルを作りながらもう一度、「フロントもリアもすっきりさせながらも、強さは必要ではないかと考えた。そこでショーカーのイメージは持たせ、サイドはすっきりさせながら前後はもう少し強さなどをつけていった」。


そのデザインをもとに再度クレイモデルを作ったのだが、「まだ新しさが足りなかったので、最後の最後でもう一度磨きをかけようと、思い切ってモダンで、出来るだけシャキッとさせようと、キースケッチをベースにもう一度描きなおした」と再びデザインに取り組んだことを明かす。そこで注意したのは、「モダンで勢いを持たせながらクリーンでシンプルに仕上げること」だった。また、「顔つきも左右方向に張り出させ、ワイド感をつけるなどの改良を加えた」結果、最終デザインが完成したのだ。

ジェリービーンズのように

このように何度もデザインを修正していったのだが、その際に最も重要視したものは何だったのか。奥野さんは、「当初から思っていたジェリービーンズのようなイメージだ。多少のゴツゴツ感は出たが、なるべくひとつの塊に見せている。ボンネットのピークを高い位置にさせつつ厚みのある顔にし、サイドもキャラクターラインを入れるのを我慢に我慢をして。本当にドア断面は苦労した」と奥野さん。なぜなら、キャラクターラインがあると、そのラインのどこかから上や下のみでも触ったり出来るのだが、キャラクターラインがない状態では、少し触ると全部の面を見直さなければいけなくなるからだ。

また、ボディサイズはもともと4mであったことから、それよりも大きく見せることにもこだわった。そこで、「Aピラーをブラックアウトすることで継ぎ目をわからなくして、フード部分が長く見えるようにした。リアも同じように後端にピラーを置くのではなく、少し前側に置くことでリア周りも長く見せている」。さらに、「タイヤももともとのパッケージングで四隅に置くようにし、出来るだけ大きく扱うようにした」。これはSUVらしさと安心感につながるからだ。


しかし、タイヤが大きいとホイールベースが短く見えてしまう。そこで、「ヘッドランプからリアコンビランプの間に面のピーク(盛り上がった部分)をバシッと通す」ことで前後に長く見えるようにしたのだ。奥野さんによると、「このように小さいクルマを大きく見せるのはダイハツとしては得意。そこを特にこのクルマでは強調した。その結果、サイズ以上に大きく感じられると思う」と述べた。

それはヘッドランプも貢献している。「シャープさを加えてパッと見た時に、このヘッドランプ格好良いといってもらえるようにした。それ以外はあまり手を加えずに、上部にシーケンシャルウインカーをつけたことが特徴だ」。またそのユニットをサイドに回り込ませ、後ろに流してなるべく長く見えるようにもした。これはリアコンビも同じ手法が取られている。つまり、サイドの面のピークを長くし、それぞれのランプユニットにつなげることで、クルマ全体をそのピークが回っている印象にしたのだ。その結果、「線が長く見えるのでクルマが大きく見えるイメージを作り上げた」と説明した。

そして奥野さんは、「作りながらよくいっていたのは、レスエレメントで力強さ、少ない要素で存在感、少ない要素で強く見せる。これを崩さないで最後までやろうとデザインしていった」と語った。

ヤッター!と思った


DN TRECからロッキーまでデザインを一貫して担当した奥野さん。最初にこのデザインを任された時、どう感じたのだろう。「ヤッター!と思った(笑)。実は入社当時に初代のトヨタ『RAV-4』が出たのですぐに買った。小さくて取り回しが良くすごく気に入っていた。大概のアウトドアスポーツ、スノーボードやサーフィンなどをよくやっていたので、そのRAV-4がボロボロになるまで使い倒した」とコンパクトSUVは得意分野なようだ。

さらに、「『ビーゴ』、『ラッシュ』も担当。その時は顔周りを中心にデザインしたが、その時もやった!小さいSUVを出来ると思っていた」と振り返り、「それから10年以上経ち、今度はリーダーとして担当させてもらえた」と嬉しそうに語る。そして、「DN TRECを作る時から、商品化出来たらと思っていた」と明かした。

では、具体的には初代RAV-4のようなコンパクトSUVを目指そうと考えたのか。奥野さんは、「初代RAV-4を自分が買った時は若かったので、これでどこに行こうという思いとともに、普段乗ってもすごく使いやすいこともあり、生活範囲がすごく広がったイメージがあった。そういったことをこのクルマにも与えたかった。ダイハツは生活に身近な商品を届けている。本格的に山の中を走るようなSUVではなく、気軽に生活の楽しさが広がるようなシティコンパクトSUV」を目指した。

しかしこだわりとして、「スポーティーなハッチバックの車高を上げて大径タイヤをつけたようなクルマは作りたくなかった」という。そして、「小さいけれどもいっぱいものが積めたら嬉しいなど、生活が広がるようなクルマ。そこで内装のモックアップを作った時にみんなで自分たちのキャンプ道具をいっぱい持ってきてどんどん積んで、ここは当たるからもっと削れないかとか、4人分載せるにはこのくらいの容量はいるよねなど。荷室と室内のどちらにプライオリティを置くかなども含めて初期の段階で検討していった。これは非常に楽しかった」と語る。

手を入れていくと好きな年齢層は高くなる!?


最後になぜあえてキャラクターラインではなく、面で勝負したのだろうか。奥野さんにそう尋ねると、「始めに設定した30代前後の若い人たちにどういうものを作れば、“良いな”といわせることが出来るか。昔からそうなのだが、いっぱい手を入れてウェッジシェイプを作り上げ、格好良くしていくとどんどん好きな人の年齢が高くなってしまう。そこで、クルマ離れしている若い人たちにこれだったら買いたいといってくれるクルマを作りたかった。しかも、人気のあるSUVでやるのが一番理にかない、インパクトがあるだろう」と述べる。

そのうえで、「服装などにしても過度な加飾ではなく、シンプルな中にある、素材などの本当の良さを彼らは知っている。それを塗装された鉄板の面でどのように表現するか。つまり、手をいっぱい入れたものではないデザインというメッセージを込めたのだ。これはもともとダイハツが持っている考え方でもある」と奥野さん。

また、「手を入れないことで弱く見えがちなものをどう強く見せるかの答えはシンプルだった」という。具体的には、「メリハリをしっかりつけて面の張りや緊張感を持たせること。そのうえでただ単にシンプルだと飽きてしまうので、少しだけ面を動かしながら、クルマが動く時に映り込んだものが微妙に変化させるようにした。人間は動く面の映り込みを見ると綺麗だなと感じる。人の手で鉄板を叩き出したクラシックカーの面は惚れ惚れするのと同じ。そういった昔のクルマには良さがある。それが革の鞄に変わったとしても、すごく良いものはいつまでもその評価は変わらない」と説明。

さらに、最近よくある自分へのご褒美として購入するものは、比較的高額で質の高いものが多い。奥野さんは、「例えばすごく高くて、シンプルな5万から10万もするような靴や、10万円以上するような鞄などだ。実はそういったものは若者向けと大人向けの雑誌を比較すると、結構同じものが載っていることが多かった。そこにフォーカスしながら全体のデザインの方向性を決めていった」。

その結果、ダイハツ ロッキーはキャラクターラインではなく面で勝負したのだ。

《text:内田俊一》

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