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【BMW X7 新型試乗】「駆け抜ける歓び」とは対極の走り?…中村孝仁

自動車試乗記

BMW X7 xDrive 35d全 24 枚写真をすべて見る

頑なにスポーツ・アクティビティー・ビークル(SAV)を標榜するBMW。その最大のモデルが『X7』である。

ご存知の通り世の中、今、とりあえずSUVを作っておけば売れる…そんな時代である。だから巷には山のように大きなSUVが溢れかえっている。そんな中でX7はひときわ目を引く大きさを持っている。

全長5165×全幅2000×全高1835mm、ホイールベース3105mm。プラットフォームはBMWのモジュラー型プラットフォーム(CLAR) を用いたもので、SAVのXシリーズでは『X3』よりも大型のものはすべてこれを用いている。例えはX3だったり『X4』などは、BMWらしいシャープな運動性能を持ったモデルとして特徴があり、SUVながらも運転が楽しめるモデルに仕上がっている。

新しくなってやはり巨大化した同じエンジン、同じプラットフォームの『X5』も、何とかギリギリでBMWらしい運動性能を持っていると感じたのだが、正直言ってこのX7にはBMWらしくない異質なイメージをその走りに持ってしまった。

「駆け抜ける歓び」とは対極の走り?


どこがどう異質かと言うと、最も感じられるのはとことん快適性を追求したかのようなバルーンライクな乗り心地である。

X5でもややその傾向があったのだが、どうやらこれはこの2台に装備されるアダプティブエアサスペンションにその原因があるのかもしれない。とにかくデフォルトであるコンフォートをチョイスしている限り、およそ路面からの突き上げ感は皆無。と言うよりもうねりを伴う路面などでは車両全体のバウンドがなかなか止まらないバルーン状態に陥ることもあった。とにかくとことん快適に作られている。

例によって、走行モードは他にスポーツとエコプロ、それにアダプティブというモードが存在し、さすがにスポーツに入れておけばそのようなことはないのだが、エコプロ及びコンフォートは快適ではあるけれど、いささか「過ぎる」傾向が強い。

またアダプティブというモードはいわゆる状況に応じてダンピング性能を変えてくれるモードなのだが、どうもその恩恵にはあずかれなかった。というわけでBMWらしい「駆け抜ける歓び」を味わいたいと思っても、正直そんなイメージとは対極の走りの印象がそこにあったわけである。

さぞやいいエンジン…と思いたいが

3列シートである。今やX5にだってその設定はあるが、こちらはホイールベースがX5よりも130mm長い。だから、3列目でも比較的しっかりとしたスペースを作り上げている。つまりは6人の大人が快適に移動できる空間を作り上げているということなのだが、そのサイズはドイツ人やアメリカ人を想定しているから、外形寸法がかようにデカくなるのだろう。

搭載エンジンは3リットル直6ターボディーゼルだ。直6と言えばBMWのお家芸で、他のメーカーがほとんど直6を捨てた時代でもBMWだけはそれを作り続けた。だからそこには意地もあって、さぞやいいエンジン…と思いたい。


勿論悪いエンジンであろうはずもなく、非常にスムーズだしパワフルである。しかし、一度は直6をやめていた同じドイツのライバルメーカー(言わずもがなだが)が、これよりも優れた直6ディーゼルを作り上げてしまった。

あちらは直6ではきっとBMWに一歩譲るのかもしれないが、ことディーゼルエンジンを作らせたら実は非常に長い伝統と実力の持ち主。今回はその部分がBMWを上回ってしまったのかもしれず、その存在があるからこのクルマのエンジンに満点は与えられないのである。ただし、限りなく満点に近くその性能やスムーズネスには全く不満はない。

極上の快適さを求めるユーザーにはピッタリ


これでもかというほど巨大なサイズになったキドニーグリル。本心を言えば少し下品に感じる。『7シリーズ』と同サイズだと聞いているが、あちらの方がまだまとまり感があるように思えた。

全高1835mmはさすがに乗降の際に抵抗感を感じてしまう。身長が180cmほどあるような人ならそれほど苦にはならないのかもしれないが、チビにはつらい。ステップも付いているのだが張り出しが少なく、そこに足をかけるのは難儀である。というわけでデザインを重んじた結果なのか、あるいは車幅を気にしたからなのか、ステップそのものがあまり役に立たない。


しかし、一旦コックピットに収まってしまうと、まあ快適である。上から見下ろす景色も何となく偉くなったような錯覚さえ覚えるし、360度見守り君の電子デバイスと、高い地上高による抜群の視界のおかげもあって、取り回しに苦労することは全くない。勿論物理的に厳しい場所では難儀するが、そもそもそんなところに入らないようにすればよいだけの話だ。

いずれにしても存在感が普通じゃないレベルのクルマだから、どこに行っても良く目立つ。極上の快適さを求めるユーザーにはこれがピッタリだ。

■5つ星評価
パッケージング ★★★★
インテリア居住性 ★★★★★
パワーソース ★★★★
フットワーク ★★★★
おすすめ度 ★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来42年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業向け運転講習の会社、ショーファーデプト代表取締役も務める

《text:中村 孝仁》

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