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【キャデラック XT6 新型試乗】キャデラックは今、大きく変わり始めている…中村孝仁

自動車試乗記

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キャデラックは再び大きく変わり始めている

その昔から、高級車でありながらヨーロッパ製の他車と比べた時、コストパフォーマンスの光っていたキャデラック。

それは今も昔も変わりはないようだ。ただ一つ異なっているのは、かつて、と呼んで差し支えない1990年代以前は、独特なアメリカンスタイルや、賛否両論のウルトラソフトな乗り心地など、良くも悪くも個性のあるクルマ作りがなされていた。

翻って今、キャデラックをヨーロッパ競合車と比較した時、正直に言うがかつて持っていたような強烈な個性はすっかり影を潜め、そのスタイルにも走りにも大きな個性は感じられなくなってしまった。

だからキャデラックが大きな方向転換を果たし始めた1990年代前半から今日に至るまで、言わば牙を抜かれたキャデラックとしか映らなかったというのが、僕個人の感想である。かつてキャデラックを所有し、賛否ありながらもその良さを認めていた僕としては、この時代のキャデラックには面白さのかけらも見出せなかった。

しかし今、キャデラックは再び大きく変わり始めている。

3つの進化


ひとつはその走行性能が完全にヨーロッパのライバルに引けを取らないところまでキャッチアップを果たしていること。そしてもう一つはADAS系のデバイスでは場合によってライバルを凌駕するまでに進化した点。そして3つ目はどうしてもありがちだったアメリカン・クオリティ故の高級車と言えどもどこか手を抜かれた感のある質感も、完全に新たなテイストとして定着し、そのクオリティが十分にライバルに対抗しうるレベルに達しているということである。

最後のクオリティに関していえば、むしろライバルがキャデラックにすり寄ったともいえる。それは今時のホテルの話をすればわかり易いかもしれない。これまでヨーロッパ車と言えば格式の高い、しかしながら伝統を重んじて何かと使いづらいあまり居心地の良くないホテルのイメージだった。

一方キャデラックはビジネスライクかもしれないが、快適で明るい居心地の良いホテルである。ちょうど90年代に入ってヨーロッパ車はこぞってアメリカに生産拠点を設け、アメリカ流に変貌して行った時期に重なり、向こうが作り方を変えてきた印象が強い。

というわけで、まさにキャデラックの居心地の良さは最新鋭の快適設備を持ったアメリカ流高級ホテルなのである。

『XT6』はコスパの高い高級車である


今回試乗したのは『XT6』の名を持つ3列6人乗りを可能にする、キャデラック的にはミッドサイズに属するクロスオーバーSUVである。もっとも外観サイズはいわゆるヨーロッパ製のフルサイズSUVとほとんど変わりはない。

具体的に言うとXT6が全長5060×全幅1960×全高1775mm。これに対して、例えばBMW『X7』は全長5165×全幅2000×全高1835mm。若干大型化しているがほぼ似たようなサイズ感である。しかし、お値段の話をするとキャデラックが870万円(車両本体、消費税込み)であるのに対し、BMWは1229万円(車両本体、消費税込み)と、実に359万円もの差がある。

まあ、方やガソリン6人乗り、此方ディーゼル7人乗りなどの違いもあるし、装備内容も多少は異なっているが、要するにこれだけの差があるわけである。


さてそのキャデラック。これまで3列シートを欲した場合、ボディオンフレームの『エスカレード』以外に選択肢がなかった。こちらはさらに大きくそのデザインなどはさらにキャデラックの個性を持っていはいるものの、さすがに東京を乗り回そうと思ったら、それなりの覚悟がいるクルマだった。

ところが今回XT6に乗ってみると、感覚的には同じプラットフォームを持つ2列5人乗りの『XT5』とほとんど変わるところがないことが判明し、いざという時に3列目を畳んでラゲッジスペースとして使えば更なるユーティリティーの高さを発揮することがわかったので、ライバルとの価格差も含め、とてもコスパの高い高級車であるという印象を強くした。

加速感に乏しい…が、メーターを見てびっくり


エンジンは既に他のキャデラックが多く使用している3.6リットルV6ユニット。実はこのエンジン、とてもシャープな吹け上がりを見せるのだが、感覚的には加速感に乏しい。ところが実際にスピードメーターを見ると、実はとてつもないスピード域にまで上がっている。つまり、どうやらトルクでぐいぐい引っ張るというよりもシャープな吹け上がりによってスピードを上げている(まあ説明しにくいが)感覚なのだ。

実際に加速データをとったわけでないから不明だが、そんな印象にさせてくれる。いずれにしても日本のスピード域で性能に不満など全くない。トランスミッションはエレクトロニック・プレシジョンシフトという最新の9速ATを装備する。因みにプラットフォームはC1XXと呼ばれる横置きFWDである。

走行モードはツーリング、スポーツ、AWD、オフロードがチョイス出来、オンロードのドライ路面を走るならツーリングもしくはスポーツである。因みににサスペンションはリアルタイムダンピングサスペンションと呼ばれる常に路面状況に応じた硬さを選ぶ可変ダンパーである。


というわけでモードをツーリングからスポーツに切り替えたところで、乗り心地が変わるということはほとんど感じられない(というか全く感じない)。一方でステアリングの重さはぐっと変わる。個人的には安定感が高いスポーツのステアリング・フィールが好きだ。

ナビゲーションも全く新しいシステムが導入されているようだがこれについては不明。また、アダプティブクルーズコントロールは最新鋭のスーパークルーズではない。車線維持などは少し緩いが、まだハンズオフではないのでこの程度が良いとも感じた。一方で前方の障害物(特に人間)に関してのコーションは少し過敏すぎて、狭い日本だと正面から来る人間にすぐに反応してしまう。まあデトロイト製であちらは人などほとんど歩いていないから、仕方ないのかもしれないがこれは少し神経質すぎるきらいがあった。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来42年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業向け運転講習の会社、ショーファーデプト代表取締役も務める。

《text:中村 孝仁》

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