カーオーディオでは、システム構築の形がさまざま考えられる。その1つ1つについて、成り立ちから楽しみ方のコツまでを考察している当特集。今回は「フロント3ウェイ・システム」にフォーカスし、これを楽しむ方法論等々をじっくりと解説していく。
“3ウェイ”はハードルが高いスピーカーレイアウトだが、それを乗り越えられると…。
最初に、「フロント3ウェイ・システム」の概要から説明していこう。「フロント3ウェイ・システム」とは、片側に口径の異なる3つのスピーカーユニットを用意するスピーカーレイアウトのことを指す。さて、なぜにこのような方式が取られるのかと言うと…。
もしも1つのドライバーユニットだけで高音から低音までをスムーズに再生できるのなら、それがベストだ。音の発生場所が1箇所に集約されるのでサウンドのまとまりが良くなる。しかし現実的にはそのようなスピーカーを作るのは難しい。なぜなら、スピーカーユニットは口径が小さくなるほど低音を再生しづらくなり、口径が大きくなるほど高音を再生しづらくなるからだ。なので、口径の異なるスピーカーを用意し役割分担をさせる。そうすることで全帯域をスムーズに鳴らそうとする、というわけなのだ。
で、2つのスピーカーユニットに役割分担をさせるのが“2ウェイ”と呼ばれ、3つのスピーカーに役割分担をさせるのが“3ウェイ”と呼ばれている。
なお、“2ウェイ”と“3ウェイ”にはそれぞれ、メリットとデメリットがある。“2ウェイ”はスピーカーユニットの数が少ない分、インストールの手間も少なくてすみ、コントロールもしやすい。しかし、ミッドウーファーの担当範囲が案外広くミッドウーファーは大きな負担を強いられる。結果、音的にはやや不利が生じる。
対して“3ウェイ”では、中域再生のスペシャリストであるミッドレンジスピーカー(スコーカー)がシステムに加わるので、中域をスムーズに再生できる。さらには、ミッドレンジを高い位置に取り付けられることも利点となる。中域の音をリスナーにダイレクトに届けられるからだ。しかし、スピーカーユニットの数が増えるためにインストールの手間が掛かり、かつコントロールも難しくなる。もろもろハードルは高くなる。
だがそれらのハードルを乗り越えられると得られるメリットも大きくなる。ゆえに、サウンドコンペティターからの“3ウェイ”支持率は相当に高い。音的には“3ウェイ”に利がある、というわけなのだ。
鳴らし方は2とおり。「パッシブ・システム」か「アクティブ・システム」か。
さて、「フロント3ウェイ・システム」とひと口に言いながらも、運用スタイルは2とおりある。1つが「パッシブ・システム」で、もう1つが「アクティブ・システム」だ。前者は、“3ウェイ”の各ユニットへと送り込む音楽信号の“帯域分割”をパワーアンプの後段に設置するパッシブクロスオーバーネットワークで行い、後者は“帯域分割”をパワーアンプの前段に設置する“アクティブクロスオーバー(プロセッサー)”で行うこととなる。
システムを合理的に完成させようと思えば、「パッシブ・システム」に分がある。フロントの計6スピーカーをパワーアンプの2chだけで鳴らし切れるからだ。対して「アクティブ・システム」では、パワーアンプのch数はスピーカーユニットと同数必要となる。ケーブル類についても同様だ。「パッシブ・システム」ならばラインケーブルも2ch分あればいいのだが、「アクティブ・システムではプロセッサー以降は6ch分必要になるしスピーカーケーブルも6スピーカー分用意しなくてはならなくなる。
しかし、「アクティブ・システム」では緻密にサウンドをコントロールできる。この利点は実は、「3ウェイ・システム」で特に活きてくる。理由は以下のとおりだ。
カー用のスピーカーは本来、パッシブクロスオーバーネットワークも含めて開発されている。なのでそれを使って鳴らす音こそが、開発者の意図する音であるのだが…。
取り付け状況に即した“クロスオーバー”設定ができた方が、音には有利!
しかしカーオーディオでは、車種により、またはオーナーの意向により、スピーカーの取り付け条件が都度変わってくる。となると、パッシブクロスオーバーネットワークの設定がそのスピーカーを鳴らすためのベストの設定ではなくなることも起こり得る。
例えば、ミッドレンジとミッドウーファーの取り付け位置が大きく離れてしまうようなときには、これら2スピーカー間の音が“中ヌケ”しがちとなるので“クロスオーバー”調整はそれに対応した設定に変える必要が出てくる。状況に即した“クロスオーバー”調整をした方がそのスピーカーの性能を引き出せる、というわけなのだ。
なので“3ウェイ”スピーカーは、最初からパッシブクロスオーバーネットワークが用意されていないケースも結構ある。「アクティブ・システム」でコントロールされることが前提で開発されたモデルが少なくないのだ。
ところで、“3ウェイ”スピーカーは高額である場合が多い。ハードルの高い選択肢であるだけに中級者以上に向けて作られている場合が多いからだろう。
しかし、比較的にリーズナブルに「フロント3ウェイ・システム」に挑戦することも可能だ。「使用している“2ウェイ”スピーカーになんらかのミッドレンジスピーカーを足す」というやり方ならば、導入のハードルを下げられる。
探せば、リーズナブルなミッドレンジスピーカーをラインナップさせているブランドは結構ある。同一シリーズのスピーカーで“3ウェイ”を組むのが順当なやり方ではあるが、必ずしもそうでなければダメということでもないのだ。そして、もしもプロセッサーが導入ずみでそれが“3ウェイ”に対応しているのなら、トライする価値はさらに高まる。すでに『アクティブ・システム』は完成されているのだから、あとはミッドレンジを追加するだけで高度なシステム運用が可能となるのだ。挑戦しない手はない。
今回はここまでとさせていただく。次回からは、特殊なサウンドシテムのあれこれを紹介していく。お楽しみに。
《text:太田祥三》