音質派ユーザーからの支持が厚いアメリカン・スピーカーブランド、“CDTオーディオ”が、ユニークなスピーカーシステム、『MST』をリリースした。これが何であり、そしてどんな力を発揮するものなのかをリポートする週刊特集をお届けしている。
前回は、コンセプトを詳しく解説した。それに引き続き今回は、試聴室でのテストの模様を詳細にお伝えしていく。
◆既存のスピーカーシステムにプラスして、「音場・音像をよりリアルに再現」!
最初に、『MST(ミュージック・ステージング・テクノロジー)』が何を目指すものなのかを簡単におさらいしておこう。
当システムは、シックスオクターブミッドツイーター『MST-02P』(税抜価格:4万8000円)と、MSTシステムコントロールユニット『MST-1SM』(税抜価格:2万4000円)とで構成される。なお当システムは、これだけで音楽再生装置として成り立つものではなく、既存のスピーカーシステムに加えて使う“補助装置”である。そしてこれを足すことで、「音場・音像をよりリアルに再現すること」が可能になるとのことなのだ。
さて、当システムはその触れ込みどおりの効力を発揮できるのか否か。そこのところをじっくりとテストした。
テストは、“CDTオーディオ”の正規輸入代理店である“イース・コーポレーション”の試聴室で行った。そして、『MST』を加える前の“元”となるシステムは、以下のユニットで構成させた。ソースユニットにはPCを(USB DACを介して音声信号をパワーアンプへと出力)、パワーアンプには“グラウンドゼロ”の『GZNA 4330XII』(4chパワーアンプ、税抜価格:15万3000円)を、スピーカーには同『GZUC 650SQ-II』(税抜価格:5万1000円)をそれぞれ使用した。
ケーブルは以下のとおりだ。すべてを“モンスターカーオーディオ”のモデルで統一。ラインケーブルには『MCA 350i-2M』(税抜価格:8000円、2ch、2m)を、スピーカーケーブルには『MCA 350S16 C』(税抜価格:800円、1m)を、パワーケーブルには『MCA PF4R/B』(税抜価格:3000円/1m)をそれぞれ使用した。
(写真)グラウンドゼロ・GZUC 650SQ-II
◆『MST』をシステムに加え、ボリュームノブをミニマムからマキシマムへと回していくと…。
まずは、『MST』をまったく鳴らさない状態でのサウンドを確認した。エントリースピーカーを使用したシステムながら、安定感ある再生音が奏でられていた。低域には芯があり、そして中高域の鳴り方も実に味わい深い。“グラウンドゼロ”らしい、エネルギー感の乗ったパンチの効いたサウンドが楽しめた。
そして早速、『MST』をシステムに割り込ませ、それも合わせて鳴らしてみた。なお、前回の記事でも説明したとおり、MSTシステムコントロールユニット『MST-1SM』には“インピーダンス補正回路”が組み込まれているので、並列接続でドライブさせても、スピーカーのインピーダンスが半分に減ることはない。4Ωのままで(パワーアンプに負荷を掛けずに)鳴らせる。
最初は、『MST-1SM』に備えられている“ステージング・レベル・コントロール・ノブ”、つまりは“ボリューム調整ノブ”をミニマム側に目一杯振って鳴らした。この状態では『MST-02P』からはほとんど音が出てこない。
そこからじわじわと、“ステージング・レベル・コントロール・ノブ”をマキシマム側へと振っていってもらうと…。
なんと、ノブを回せば回すほどサウンドステージの奥行きが深くなり、左右の幅も増大していく。そしてそれと同時に、センターイメージがよりシャープになり、そして一層前方へとせり出してくる。
巷のソースユニット等には、サラウンド感を付加するチューニング機能が搭載されていることがあるが、『MST』でもある意味、サラウンド感が付加されたように聴こえる。しかし、一般的なサラウンド効果を付与する機能とは異なり、音像がぼやけることがない。むしろセンターフォーカスはシャープになっていく。つまりステレオイメージが一層リアルになっていく、というわけなのだ。まさしくコンセプトどおり、「音場・音像をよりリアルに再現」できているのだ。
(写真)CDTオーディオ・MST-1SM
◆再現しきれていなかった情報を補完。結果サウンドステージは一層生々しく。
サウンドステージがよりダイナミックになり、同時にセンターイメージがよりリアルに、かつ一層生き生きとしたその理由は、「『MST』により、音源に含まれている情報が余すことなく再現されたから」。こう考えるしかなさそうだ。
テスト環境においては、音響的なコンディションは至って良好だ。であるので、音源に含まれている情報がロスなく再現されていたかというと、100%再生しきれてはいなかったのだ。そこに『MST』を加えることで、引き出しきれていなかった情報が補完され、立体感や奥行き感がより克明に再現され、かつセンターイメージの実在感も上がったというわけなのだ。
デジタルチューニングを駆使することで、サウンドステージをよりリアルに再現することが可能となるが、『MST』の場合はそれを、物理的に実行したのである。しかも、もともとあったものを引き出すというアプローチなので、得られる結果はごくごく自然だ。音像がシャープになる分、若干風合いが硬めな方向に振れているようにも感じられたが、音色はあくまで正確だ。色付けがなされたという印象はなかった。
(写真)CDTオーディオ・MST-02P
◆効き目の深さをコントロールするスイッチも装備!
ところで『MST-1SM』には、“ステージング・レベル・コントロール・ノブ”とは別に、効果の程度を調整できる機能が備えられている。“フリーケンシースイッチ”というツマミが、右chと左chのそれぞれ備えられていて、「アップポジション」と「ダウンポジション」のどちらかを選択できる。
「アップポジション」とは、要は『MST-02P』をフルに(再生可能帯域は200Hzから20kHzまで)鳴らすモードである。対して「ダウンポジション」とは『MST-02P』を“イメージツイーター”として鳴らすモード、とのことだ。つまりは“ハイパスフィルター”を掛けるモード、となっている。
その効果を試すべく、“ステージング・レベル・コントロール・ノブ”をマキシマムにした状態で、“フリーケンシースイッチ”を“アップポジション”から“ダウンポジション”へと切り替えてもらった。
すると、サウンドステージがひと回り小さくなり、センターイメージの浮き上がり方もやや抑え気味な方向へと変化した。同時に、風合いの硬さも弱まった。ダイナミックな再現性に耳が慣れつつあったので少々の物足りなさも感じたが、当システムにおいてはこちらの方がむしろ聴き疲れはしなさそうだ。つまり、『MST』の効き具合がマイルドになったのだ。
使用しているスピーカーユニットの能力や特長、さらにはインストールコンディションの違いによっては、情報量を出来るだけ引き出した方が良い場合もあるだろうし、逆に『MST』の効き具合が浅めの方が使用スピーカーの個性が活きてくる場合もあるだろう。それを簡単に聴きながら選べる。使い勝手も考えられている。
(写真)CDTオーディオ・MST-1SM
◆「スピーカー交換」をした後の“次の一手”の新たな選択肢!
ところで、『MST』が特にその持ち味を発揮できるのはどのようなケースだろうか。
さまざまな使い方があるとは思うのだが、ハイエンドシステムが搭載され高度にサウンドチューニングされたシステムより、リーズナブルなスピーカーが手軽な方法で取り付けられている車両においての方が、つまり、良くなる“伸びシロ”が多いシステムに対しての方が、その能力がより活きてきそうだ。
純正スピーカーからのサウンドアップのために市販スピーカーに交換した後の、“次の一手”としての新たな選択肢、そう考えると良いのではないだろうか。サブウーファーの追加や、DSPの導入、パワーアンプの付加等がスタンダードな“次の一手”なのだが、それらと比較して『MST』は、「失敗しないこと」も利点となる。セッティングやチューニングが難しくないので、その効果を確実に手にできる。スピーカー交換を実行した後にもう1度音が良くなる感動を味わいたいと思ったら、『MST』を使ってみても面白い。
これに引き続き次回には、シックスオクターブミッドツイーター『MST-02P』の、もう1つの活用方法についてリポートする。次週の当記事も、お読み逃しのなきように。
《text:太田祥三》