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【ジープ コンパス 試乗】「ジープらしさ」と「らしくなさ」の狭間…中村孝仁

自動車試乗記

ジープ コンパス リミテッド全 21 枚写真をすべて見る

ジープというブランドに対して、我々が抱くもの。それは力強さであったり、無骨さであったり、無類の走破性であったりする。

しかし、最近のジープはそうではない。2014年には初めて世界で100万台を販売し、今や140万台を超える巨大ブランドに成長しているのである。その背景に何があるのか。それは『チェロキー』によってSUVという市場を開拓し、さらに『グランドチェロキー』によってSUVの高級市場を開拓するなど、常にSUV市場のリーダーとして存在するブランド。まさしくSUV人気にあやかって急激にその販売を伸ばしてきたのがジープである。だから、今ジープに求められるものは、従来の力強さであったり、無骨さであったり、無類の走破性であったりも当然だが、一方では快適さだったリ、スムーズさだったり最近ではさらに高級感も求められるようになって来たというわけだ。

そんなわけで、ジープというブランド自体が、少なからず変貌を遂げているということをまずは念頭において欲しい。最新のジープ『コンパス』は、2世代目のモデルである。初代は2007年モデルとして登場し、日本では2012年から販売が開始された。初代においてコンパスに求められたのは、昔からのジープに求められたものとはまるで違った。日本のユーザーの8割以上はコンパスに4WDを求めなかったのである。だから初代モデルはFF車のみの設定だった。

今回の試乗車「リミテッド」は、新しいコンパスの最上級モデル。そして4WDである。だから、ある意味ジープらしさを取り戻したコンパスと言っても差し支えない。勿論そのタフネスぶりを発揮するような試乗はしていないから、本当の意味での力強さは味わっていない。しかし、初代に多くの日本のユーザーが求めた、快適さやスムーズさは初代以上に洗練されて、コンパスをより一層進化させたといえよう。

ニューモデルはそのプラットフォーム自体を先代と変え、ひとクラス下の『レネゲード』と共有したものを用いている。勿論FWDベースである。また、レネゲードがイタリアをはじめ、ブラジルや中国で作られるのと同様、コンパスもメキシコ、ブラジル、中国、それにインドで生産される。つまり、どちらも母国アメリカでは生産されていないのだ。このあたりにもジープが大きく変貌した一因がある。言い換えれば世界基準にアジャストしたから販売が伸びたと…。

さて、日本にやってくるコンパスは、右ハンドルを作るインドからだ。だから何だ?となるのは当然で、そのクオリティーレベル、特にアッセブリング・クオリティーに関しては、何ら心配する必要はない。

マルチエアの2.4リットル直4ユニットも、レネゲードの「トレイルホーク」と共有である。マルチエアはフィアットの技術。吸入側のバルブはカムではなくピストンによって駆動させ、スロットルバルブを閉じないことで、ポンピングロスを減らせるという画期的なものだが、効率が良いはずなのに燃費はお世辞にも良いとは言い難く、今回も400km以上を走った総合計でおよそ8.4km/リットル。まあ、JC08の燃費が9.6km/リットルなので、かなりJC08に近い値が出ているのは立派だが、最近の高効率ライバルと比較すると、少々見劣りする。ただし、欧州のライバルと比較した時、レギュラーガソリンでOKなのは救いだ。

一方で走りは中々の好印象である。試乗車はまだスタッドレスを装着しており、そのゴツゴツ感やパターンノイズの大きさを差し引けば、乗り味は快適だし、そこそこの運動性能を持ち合わせている。ただし、徐々にRがきつくなるようなコーナーでは、少々重心高の高さが気になる。

ZF製9速ATを装備しているが、これは日本の交通事情では完全な宝の持ち腐れ。9速に入ることはない。100km/hで流しても、7速の状況が多く、8速はマニュアルシフトで無理やり入れてやる必要があったりする。ヨーロッパのように150km/hで巡行するような状況なら9速が活きるというものだ。それにアイドリングストップしないのも、燃費を悪くする一因かもしれない。

というわけで、一切の無骨さは排除されて、ラグジュアリーなグランドチェロキーとうり二つの顔つきを持ち、そこそこに快適。しかし、ちゃんと4WDという設定。何となくジープらしさと、ジープらしくなさの狭間にいるクルマという印象を受けてしまった。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★
おすすめ度:★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来39年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。

《text:中村 孝仁》

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