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【プジョー 3008 ディーゼル 試乗】プジョーの革新を象徴するモデルだ…中村孝仁

自動車試乗記

プジョー 3008 GT BlueHDi全 24 枚写真をすべて見る

昔を知るものにとって、プジョーというブランドは保守の塊のような存在であった。もっともそれは、余りにも斬新で革新的なシトロエンというブランドと比較されてのことだったように思う。

PSAとなって、プジョーはシトロエンを飲み込んだ。1991年に誕生したPSAは今年に入って、インドのヒンドスタンモーターとアンバサダーのブランドを買収、それに続いてドイツのオペルをGMから買収、更にはマレーシアのプロトンにまで手を伸ばしたが、それは中国のジーリーにさらわれてしまった。こうしたM&Aの結果、PSAは今、VWに次ぐ、ヨーロッパ第2の巨大メーカーに成長しているのだ。

とまあ、少々前置きが長くなったが、こうしたM&Aはすべて今年、即ち2017年に入ってから行われたもので、如何にPSAが急成長を遂げているかがわかるのだが、この拡大路線の背景には生き残りをかけたサバイバル戦の様相も見え隠れしている。

『3008』はそんなイメージを一新したPSA、とりわけプジョー・ブランドを象徴するモデルと言って過言ではない。

冒頭お話したように、プジョーは少なくとも70年代までは非常に保守的なクルマ作りをしてきた。また、ラリーには滅法強くその伝統はシトロエンに引き継がれて今に生きる。イメージを一新したと書いたが、そもそもプジョーというブランドはSUVというカテゴリーに無縁のメーカーで、自ら作ることをせず、我が日本の三菱からOEM供給を受けていたほど。それが突如としてSUVに目覚めたと思ったら、一気に3モデルをラインナップ。その中核となっているのが3008である。

デザインもこれまでとは異なって、洗練されたイメージと上質感に溢れ、インテリアは同じく質感高く、さらにi-コックピットと称する、ステアリングの上からメータークラスターを見る独特のポジションをはじめ、メーターもディスプレイ表示に変わり、多様な表示を可能にするなど、一気に最先端レベルまで進化した。

既にガソリンモデルのレポートはお届けしているが、今回は後発のディーゼルエンジン、2リットル BlueHDiを搭載したモデルのレポートだ。このエンジン、すでに『308』にも搭載されているもので、新鮮味はないものの、180psの最高出力と400Nmの最大トルクを誇るなかなかのパフォーマンス。308同様、スポーツモードをチョイスすると俄然活発に走るのはちょいと先を急ぎたい時などには有効である。

シトロエンと一緒になった当初、この二つのブランドはコストダウンと言えば聞こえはいいが、ボディスタイルまで共用してお互いの長所を潰し、安くは作れても決して良い効果を生み出してこなかったように思うが、最近になってスタイルのみならずその走りまでもが、かつての個性を取り戻している点はファンとしてはとても有難いことだ。

プジョーの走りは尖がったモデルを除けば、昔から凡庸だったように思う。それは悪い意味で言っているのではなくて、大きな走りの特徴もない代わりに、誰からも好まれるいわゆる万人好みという意味である。その印象は3008でも変わらず、決して突出した何かを持っているとは思わないが、かといってネガティブな要素を見つけることもできない。例えばシトロエンは、抜群に快適な乗り味を持っているが、一方でズバッと加速することは苦手である。2リットル BlueHDiを手に入れた3008は、特にパーシャルからの加速が、このズバッとに当たり、痛快この上ない。乗り心地は、どちらかと言えばドイツ車的で、ここだけは昔の味を思い出せなくなっているが、その分屈強で軟弱な印象が一つもない。

今風の安全デバイスや、自動運転の魁となるACCなども装備されてはいるが、ACCは停止するとキャンセルされてしまうので、全車速という文言は当てはまらない。

SUVと書いたが、何故か4WDは用意されておらず、代わりにグリップコントロールなる、エンジントルク&ブレーキ制御による走行制御機構を備えている。これにスタッドレスが装備されれば、市街地に降る雪程度なら何の心配もなく走行が出来そうなので、折衷案としてはかなり有効に思える。上質さが増した分、お値段もそれなりに上がってきているが、クルマは今数々の安全や環境、それに自動化に対するデバイスを装備してどんどん高額化しているから、400万円を超えたといっても、ことさらに高いという価格設定ではないと思う。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来39年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。

《text:中村 孝仁》

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