『メガーヌR.S.』と聞いてまず思い出す色は、やはりルノーのコーポレートカラーでもあるイエロー。次がホワイトやブラックなどのモノトーンだろう。だから今回の試乗車が、「ルージュフラムM」と呼ばれる赤だったことが、まずは新鮮な驚きだった。
赤と言えばクルマの世界ではスポーツカーの定番カラー。でもメガーヌR.S.にはひさびさの設定となる。だからだろう、ルノースポールのフラッグシップというより、流麗なスポーツクーペというイメージを抱かせてくれた。
ドアを開けると、大人っぽいインテリアが目に入る。必要以上に高性能を強調することも、無理に豪華に見せようともしていない。レカロのバケットシート、ステアリングのセンターマーク、3つのアルミペダルなどが、レーシングカーのような機能重視の雰囲気を漂わせている。
そこに赤い差し色が、インパネやシートベルト、ステッチなどで入る。最新のメガーヌR.S.273では、ここはボディカラーに関係なく赤になる。ルージュフラムMは、このコーディネートが待ち望んだボディカラーと言えるかもしれない。
今回のマイナーチェンジでさらに8psのアップを果たしたエンジンは、相変わらずターボの盛り上げ方が絶妙だ。グレーに色分けされたタコメーターの2500rpmあたりから明確に、でも唐突さを感じさせずに盛り上がっていく。低く太い、迫力のある排気音も、ドライバーの気持ちを高ぶらせる。
このエンジンを3ペダルの6速MTで操るところもまた、メガーヌR.S.273の醍醐味だ。ダイレクト感では、やっぱりMTの右に出るものはない。スポーツモードを選べば、さらに鋭い反応を選ぶこともできる。ターボがダウンサイジングのデバイスになりつつあるからこそ、パフォーマンスに振り向けたキャラクターに引き込まれる。
今回は東京都内での試乗だったので、メガーヌR.S.273の真価を満喫できたとは言えない。でもこのクルマは街中を流している時でさえ、本物の手応えを伝えてきてくれる。電子制御に過度に頼ることなく、メカニズムの磨き込みで高みを目指しているからだろう。
ステアリングやシートを通して4輪の状況が伝えられるので、安心してドライビングに集中できるし、乗り手の意志でその状況を自在に変えることもできる。ペースを上げれば上げるほど、ドライバーとクルマの距離が縮まっていくような感覚だ。
後席にも大人が楽に座れ、荷物もたっぷり積めるクルマとは思えないほど、走りはレーシングライク。400万円を切る価格はバーゲンプライスだと、毎度のことながら思う。ところが今なら試乗したルージュフラムMなら、赤いアイテムを身につけて来店することで、さらに15万円のプライスオフが受けられるという。
最初にも書いたけれど、メガーヌR.S.で赤を思い浮かべる人は少ないはず。だからこそチェックする価値がある1台だと思っている。
森口将之|モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト
1962年東京都生まれ。自動車専門誌の編集部を経て1993年に独立。雑誌、インターネット、ラジオなどで活動。ヨーロッパ車、なかでもフランス車を得意とし、カテゴリーではコンパクトカーや商用車など生活に根づいた車種を好む。趣味の乗り物である旧車の解説や試乗も多く担当する。また自動車以外の交通事情やまちづくりなども精力的に取材。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。グッドデザイン賞審査委員。
《text:森口将之》