10万円前後の価格帯に実力モデルが居並んでいるスピーカー市場。その、“ミドル・ハイ”グレードとも言うべき位置にいる人気モデル7機種の比較試聴を実施した。それぞれの特長は何なのか、お買い得なスピーカーはどれなのか…。詳細にリポートしていく。
連載3回目となる今週は、残り2機種のインプレッション・リポートと、7機種の中から、テスターそれぞれが選んだ“ベストバイ”を発表する。試聴に参加したのは、イース・コーポレーションの、Super High-end 推進事業部 兼 Monster Car Audio 国内事業部の関口周二さん、当サイトの藤澤純一編集長、ライターの私、太田祥三の3名だ。
なお、今回取り上げたスピーカーは以下の7機種。
1・MTX・SS7
2・CDTオーディオ・HD-62
3・フラックス・MC261
4・レインボウ・GL-C6.2
5・VIBEオーディオ・CVEN62C-V4
6・JLオーディオ・C5-650
7・ロックフォード フォズゲート・T3652-S
という顔ぶれだ。
では早速、6機種目となる『JLオーディオ・C5-650』についてのリポートからお届けする。
◆パンチの効いたアメリカン・サウンドを堪能できる実力機。
- ☆JLオーディオ・C5-650(税抜価格:11万円)
- ●定格入力:75W ●周波数特性:48Hz~25kHz ●能率:89.5dB ●取付穴直径:141.2mm(ウーファー部) ●取付深さ:64.6mm(ウーファー部)
スピーカーは計5ラインを持っている。その中で当機、『C5-650』は、2ndグレードとなる『Evolution C5シリーズ』の16.5cm2ウェイコンポーネントスピーカーだ。
トゥイーターはネオジウムマグネットが搭載された19mmピュアシルクドームだ。そしてミッドウーファーは、振動板にはドイツのクルトミューラー社のプレミアムコーンが採用され、アルミダイキャストフレームにはDMA(Dynamic Motor Analysis)オプティマイズ・モーターシステムが搭載されている。このトゥイーターとミッドウーファーの絶妙なマッチングが、滑らかな帯域バランスとリアルな質感の再現を可能にしている、とのことである。
パッシブクロスオーバーネットワークもなかなかに手の込んだ作りとなっている。ミッドウーファーレベルは3段階、トゥイーターレベルは4段階で調整でき、12通りの組み合わせの中からもっとも気に入ったバランスを選ぶことが可能だ。
果たして、これに対する3名の評価は…。
関口(以下、関)「間違いのない、安定したサウンドですね。聴いていて安心感があります。帯域バランスも至ってフラットです。また、これまで聴いてきた製品よりも、スケール感がひと回り大きくなったようにも感じました。ヴォーカルもしっかり前に出ています。重心も低く、ワイドレンジですね。大人なサウンドだと思いました」
藤澤(以下、藤)「確かに、トーンバランスがフラットですね。繊細に音を奏でている印象もあります。さすがは、8年間売れ続けているベストセラー製品です。完成度が高い。ただ好みで言うならば、もう少し透明感がほしい気はしましたね」
太田(以下、太)「音にハリがあり、密度感も高い。特に低域にその傾向が顕著だったように思います。高域には適度にしっとり感があって、かつ滑らかです。そして、1音1音に生命力があり、説得力もあったと思います。価格に見合う実力は十二分に備わっていますよね」
3人の話を総合して、当機が実力機であることは間違いなさそうだ。基本性能が高く、安心して聴けるスピーカーであることも確かだ。どっしりとしたサウンド傾向でもあり、ビート感がキモとなるジャンルでは特に持ち味が生きそうである。パンチのあるアメリカンサウンドが好みであれば、有力な候補になり得るだろう。さすがはベストセラーモデルである。売れる理由をしっかりと携えていた。
◆分解能、情報量、解像度、それぞれが1ランク上を行っている…。
続いて、7機種目となるこちらのインプレッション・リポートをお贈りしよう。
- ☆ロックフォード フォズゲート・T3652-S(税抜価格:13万円)
- ●定格入力:125W ●周波数特性:40Hz~30kHz ●能率:87.5dB ●取付穴直径:144mm(ウーファー部) ●取付深さ:71mm(ウーファー部)
構造的な最大の特長は、トゥイーターとミッドウーファーの振動板に同一素材が使われていることだ。”LCPF(Liquid Crystal Polymer Fiber)”と呼ばれるこの素材は、高い弾性・剛性・制振性・耐熱性を誇り、高出力時でも安定したコーン強度を維持し、かつ、ナチュラルな高音質再生も実現するという。
また、ミッドウーファーのフレームおよび磁気回路の設計においても、工夫が凝らされている。高精度アルミダイキャストフレームは、背圧の影響を受けにくく不要共振を排除するデザインが採用されていて、磁気回路には放熱を効率化するIDHS(Inductive Damping Heat Sink)テクノロジーが投入されている。
パッシブクロスオーバーネットワークにも見どころが多々。バイアンプに対応し、またトゥイーターを過大入力から保護するPTCプロテクション回路や、トゥイーターの取り付け位置によって切替するON/OFFアクシススイッチが装備されるなど、高品位な仕様となっている。
さて、人気モデルである当機。その実力はどうだったのかと言うと…。
藤「堅過ぎず柔らか過ぎずの絶妙な音色ですね。トーンバランスも良く音の輪郭もしっかりしている。レンジも広く余韻も美しいと思います。低域も、量感をしっかりと感じさせながらも良く締まっていて好印象です。サウンドの土台を強固に作り上げていますよね。スケール感が大きく、それでいて精細ですし。さすがですね」
太「クリアですよね。その上で1音1音にハリがあって、芯もあります。音の分離が良く、粒立ちも良いです。リアル感も高い。レスポンスが良く、エネルギー感もあります。高性能であることは疑いようがないですね」
関「聴き慣れているサウンドですが、改めてT3の良さを感じました。トゥイーターとミッドウーファーの振動板素材が同一であることのメリットが活きていますよね。繋がりが良く、倍音のノリも自然で、かつ豊潤です。空気感の表現も文句なしです。チーフエンジニアであるドリュー・カレン氏の気合いが伝わってきますね」
当機は、今回取り上げた他のスピーカーと比べて、性能面で頭ひとつ抜けていた。分解能、情報量、解像度、それぞれが1ランク上を行っていたのだ。ロックフォードには、これよりもさらに上級グレードとなるスピーカーが、T4、T5、そしてJ5と、3機種用意されているわけだが、このT3も紛れもなく、ハイエンドスピーカーの範疇に入っている。改めて、T3の素性の高さを思い知った。
◆スペックだけでは計り知れない個性が、それぞれにはある…。
以上、ここまでの試聴を終えたところでいよいよ3人が、7機種の中での“ベストバイ”3モデルを選出した。結果は以下のとおりだ。
藤澤
第1位 『ロックフォード フォズゲート・T3652-S』
第2位 『CDTオーディオ・HD-62』
第3位 『フラックス・MC261』
関口
第1位 『ロックフォード フォズゲート・T3652-S』
第2位 『JLオーディオ・C5-650』
第3位 『レインボウ・GL-C6.2』
太田
第1位 『フラックス・MC261』
第2位 『レインボウ・GL-C6.2』
第3位 『ロックフォード フォズゲート・T3652-S』
もっとも評価が高かったのはやはり、『ロックフォード フォズゲート・T3652-S』だった。
藤「存在感が違っていましたね。低域から高域までがしっかり積み上がっていましたし、空気感の表現も見事でした。このくらいの価格までいかないと、ホール感まで再現するのは難しいんでしょうね。第1位はこれ以外考えられないでしょう。文句なしだと思います」
太「その意見に異論はないのですが、ぼくは、価格も含めた総合力で、敢えて『フラックス・MC261』を第1位とさせていただきました。価格的に10万円というラインは1つの“壁”になると思いますが、それ以上は出せないということであったなら、迷わずこれを買いますね。ぼくは特に、管楽器の音が好きなんですね。『フラックス・MC261』がもっともぼく好みに、管楽器の音を再現してくれていたんですよ。すごく充実感のある音でした。
そして『レインボウ・GL-C6.2』ですが、これは人気が出そうですよね。魅力的な音でした。ツヤっぽさと力強さのバランスもいいですし。基本的な能力も高いと思うんです」
ところで藤澤編集長は、『CDTオーディオ・HD-62』を第2位に押していますが、その理由をお聞かせください」
藤「独特の魅力にやられましたね。これを聴いたあとに5機種を試聴したわけですが、それでもこの音が最後まで忘れられませんでした(笑)。良いスピーカーだと思います。音の分離も良かったですし、メリハリもありましたし。欲しいと思いました」
太「関口さんは、『JLオーディオ・C5-650』を第2位に押されています。どういう点が評価ポイントだったのでしょうか」
関「当モデルは、今回聴いた中ではもっとも古くから販売されているロングセラーモデルです。ですので最新の機種と比べると、モダンな音ではないのかもしれないのですが、安定感はさすがだと感じました。重心の低さも好印象でしたし、安心して聴けるスピーカーであることを再確認できました。引き込まれるものがありましたね」
◆
今回の7機種はいずれも、価格に見合うクオリティが備わっており、不満に思わせる要素があるモデルは見当たらなかった。実力は拮抗していたのだ。しかし、各機ごと特長の違いははっきりと感じられた。やはりスピーカー選びは奥深い。スペックだけでは計り知れない個性が、それぞれにある。
“ミドル・ハイ”グレードのスピーカー市場は、実力機種ぞろいであることを、身をもって再確認できた。選び甲斐のある価格帯である。当記事も参考にしていただきながら、手応えあるスピーカーを、見つけ出していただけたら幸いだ。
《text:太田祥三》