「これは究極的に実用的なスポーツカーです」と、ジャガー・ランドローバー・ジャパンのスタッフは言った。確かにSUVだから室内は広いし、ラゲッジも広そうだ。最新の運転支援システムもあるし、自動で出てくるステップや車両のロックをブレスレットで行えるオプションも便利そう。実用的という部分では、まったく異論はない。
しかし、背の高いSUVがスポーツカーとは「大きく出たな!」というのが正直な思いであった。
ところが、走りだすと、そんな心が揺らいでゆく。まず、Aピラーがドライバーに近く、左右のフロントフェンダーのピークが見える。つまり前輪の位置がわかりやすい。「ちょっとスポーツカーに近いな」と。また、基本は後輪駆動で、滑ったときだけ前輪に駆動が伝わるという4WDシステムということもあり、ステアリングからのフィードバックは、まるでFRセダンのようだ。
加速、減速、ターンインのときに4輪のタイヤにかかる荷重の変化がわかりやすい。しかも、クルマとドライバーとの一体感が感じられる。コーナーのたびに、「今度は姿勢が決まった!」などと操っている実感が得られる。端的に言えばコーナーが楽しいのだ。エンジンはパワフルだけれど、実寸法の大きさもあり、ずば抜けて速いわけではない。しかし、操る楽しさや、そのフィーリングは「スポーツカーそのものじゃないか!」と。
ここで冒頭に戻ろう。ジャガー・ランドローバー・ジャパンはウソを言っていなかった。確かに『F-PACE』は説明通り、実用的でありながら、しっかりとスポーツカーでもあったのだ。これはすごい。そんな無茶をさりげなく実現させたジャガー。最近になってグングンと注目度を高めているのも当然のことではないだろうか。
ちなみにスポーツカー・テイストで言えば3リットルV6ガソリン・エンジンを搭載する最上グレードの「S」の方が、ディーゼル・エンジンの「20d」よりも勝っていた。これはパワー・フィールというよりも、可変ダンパーをおごった「S」の足の良さが多いに影響していたように思う。
■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★
鈴木ケンイチ | モータージャーナリスト(日本自動車ジャーナリスト協会会員)
新車のレビューからEVなどの最先端技術、開発者インタビュー、ユーザー取材、ドライブ企画まで幅広く行う。特に得意なのは、プロダクツの背景にある作り手の思いを掘り出すインタビュー。
《text:鈴木ケンイチ》