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第4章 ヘッドフォン、ホームオーディオ、カーオーディオ それぞれでの音楽の聴こえ方の違いとは…Part.3
今回のシリーズでは、ヘッドフォンとスピーカーを比べながら、スピーカーという機械が何を目指して作られているかということについて松居さん流に語っていただいている。そしてそれを踏まえ、カーオーディオではどのような難しさがあり、それに対してどう対処すべきか、というところに向かって話が進んでいる。今回はそれについて、松居さんが常々思っていることを語っていただいた。じっくりとお読みいただきたい。
前回の続きをお話しする。
スピーカーは空気振動発生機であり、これを使って目の前に生演奏を蘇らせようとするわけだが、そのタイプには大きく分けて2つがある。
ダイレクトラジエターと呼ばれる直接空気を振動させるタイプと、ホーンスピーカー、この2つである。
ピアノや打楽器と同じように直接空気振動を発生させるダイレクトラジエター、管楽器のように狭い空間で発音させた振動を徐々に広がるホーン(ラッパ)で位相を形成し、空中に放射するタイプ、この2つである。
音波は基本的に無指向で球面状に広がるので、ダイレクトラジエターがその動作に近く、自然な聞こえ方になる。ただ、指向性が広いということは、そのまま直接リスナーに伝わる直接音が、天井、壁、床にぶつかった反射音の干渉を受けやすく、スピーカーやリスニング・ポジションを反射の影響を避けた位置にセッティングしなくてはならなくなる。
または、壁に音を反射させない構造のパネルなどを置いて(波消しブロックのような)対応しなくてはならない。
もう一方のホーンタイプは、「小さく産んで大きく育てる」的な装置であり、位相が出来上がってから空中に放出されるので、消滅しやすい中高域も、長い時間音波として位相を保つことが出来、遠方まで音波を送れる。選挙カーや防災用スピーカー、コンサートSRシステムはこのホーンシステムを利用している。
敏感な反応を要求される録音スタジオ用モニタースピーカーも、高性能なコンプレッションドライバーとホーンを組み合わせたこの方式を採用するタイプが多い。
位相の生命力が強く、指向性を制御できることが、この方式のメリットなのだ。
さて、カーオーディオの場合について考えてみたい。カーオーディオではスピーカーとリスニング・ポジションはとても近いが、狭い空間であったり、ロードノイズの影響などを考慮すると、完成された位相を発生させることができるこのホーンを有効に利用出来るのでは、という気がしている。
ドアミラー裏やAピラーのようなコーナーの位置を有効利用し、出来るだけワイドレンジなホーン & ドライバーを生み出せるのではと、常々思っているのだ。
ちなみに僕が今使っているDIATONE・DA-SA1は、このホーンをダイレクトラジエターと組み合わせたタイプのスピーカーである。しかし、これをさらにワイドレンジにしたスピーカーがあれば、狭い空間であることが生むネガティブな要因に対処できるのではないかと考えているのだ。例えば、KEF(TANNOY)のスピーカーような、コーンをホーンとして利用した小型同軸2wayにしてはどうか。個人的にはこの方法に最も可能性を感じている。
今回は、クルマにおいて本当に理想的なスピーカーはどのようなものなのか、という持論を展開させていただいた。いつかこのようなスピーカーが出てこないものかという願望だ。
次回はここまでの話をまとめ、現状あるスピーカーで、狭い空間というネガティブ要素にどう対処していけばよいか、ということを話してみたいと思っている。
《text:松居邦彦》